2.なぜ、経験豊富な経営者がコーチをつけるのか
経営者には、自分自身の思考・言動の特徴や、社員への影響力を客観的にとらえる能力が必要です。なぜなら、経営者と社員の間には利害関係が発生するため、必ずしも社員が本音や事実を伝えてくれるとは限らないからです。
日本能率協会が毎年全国の企業経営者を対象に行っている経営課題調査では、2013年以降「働きがい・従業員満足度・エンゲージメント向上」が当面の経営課題として挙げられるようになっています。2017年度調査では経営課題のうち10位にランクインしています。
ある企業が全社員アンケート調査を外部委託し、組織課題を尋ねた結果、経営方針への疑義やサービス残業の実態が複数の社員から寄せられました。同社の経営者は、過去にも社員に意見が欲しいと言っていたそうですが、直接耳に届いたことはなかったそうです。このように、立場が上がるほど他の社員から率直なフィードバックを受けたり、忌憚のない意見を言いあったりする関係は減ってしまう場合があります。さらに、経営経験が長くなるほど、これまでの成功体験や自身の考えに固執してしまう場合もあります。
コーチをつけている経営者にインタビューを行ったところ、「普段自分が考えていないような質問をしてもらうことで、新しい視点や気づきが得られる」、「社内で話せない複雑な事象をコーチに話すことで、客観的に事象を眺めることができ、状況の整理ができる」、「立場上、耳の痛いフィードバックをもらえる機会が少ないため、その役割をコーチにお願いして自分の成長につなげている」などの回答がありました。