【連載vol.1】東京ストーリー


画面の向こうからマイコが話しかけてくれた。向こうはまだ15時だから、部屋の様子は明るい。

「こんばんわ、いや、こんにちはかな。先ほどは返信ありがとう」

「いえ、前回のセッションのときから悩まれていた様子だったので気になっていたんです。先ほどお送りいただいた返信についてはどう思ってらっしゃいますか?」

「どう?と言われても・・・、いろいろ考えた結果なのだけど、正しい結論になっていないかな」

「”正しい”かどうかは、今回の課題をどの視点で捉えて、どのレベルに至る解決をしようとされているかによると感じました。
マサフミさんの答えは、管理部門の方が求めているコンプライアンス的に”正しい”対応かもしれませんが、それがマサフミさんが求めている正解かといわれると、日頃の思考パターンと異なるように思いますが、いかがですか?」

「今回の若手は厳しく言っても反発するだろう、彼の言い分をまず聞いたうえでニーズを聞こうと考えたんです。まずやるべきはこの手続きであっているのだろう、ただ同時にこう思ってしまった。これは私が理想とする組織や人材の姿なのだろうかと。」

「どういうことですか?」

「理想とする姿は一人ひとりがプロフェッショナルとして振る舞う職場。
考えていることがあれば発信をし、お互いを尊重しあうことで高めあい、他社以上に顧客に価値のある成果を出すことができると思っている。
そのために問題があるなら対処はしていきたいと思うが・・・」

「今回の対応がその”問題への対処”とはならないのですか?」

「問題は起きている、だが彼の言い分はチームを考えるのではなく、利己的なまるで子どもの駄々のように思える。今回の対処は駄々をいなすことにはなるが、それで理想の組織や人材に近づくかというと、そう思えない。
個々人の主張や自由度は増しても、生産性や創造性が増している感じが持てないだけで、コストが増えるように感じてしまっているかな」

話しながら、どうして自分がこんな話をするのか、頭の中で自分の若手時代を思い出していた。
当時は働き方改革なんていう言葉もなく、残業も多かった。だが現場でなんとかしてやろうという思いから、
指示されたこと以上の結果を出すためにONE Teamで魅力ある先輩・同僚と奮起していた。

あれから会社も大きくなり、自分も役職を与えてもらったが、当時のような熱気や成長を感じることが少なくなってきており、焦りや物足りないような気持ちになるときがある。

「歯車みたいですね」

考えていたときに唐突にマイコが言った。

「え?」

「歯車みたいなだな、と。まるで会社の一部になって自分の意志ではなく、大きな動きを伝えていくための部品になっているように見えます。」

「・・・会社の歯車か。
最近は個性や働き方改革の中で変わりつつあるけど、それは理想論でしかなくて、管理職層はまだ歯車として有り続けるしかないと感じているよ。」

「でも歯車って、様々な大きさがあり、嚙合わせる歯の間隔によって、早く回せたり、大きな力につなげることができたりしますよね。歯車だって相手にうまく伝えるためだったり、目指す目的のために調整しないといけないことがあるのではないですか?」

「なるほど」

「マサフミさんは、myPeconの4象限整理だと右下にあたるロジカル思考が強い傾向があるので、感情に飲み込まれることがない一方、
まず頭で客観的な状況を把握してそこに答えを置きがちですね。今回は敢えてその思考プロセスを残しつつ、左下である将来に向けた戦略性を重ねてみましょうか?」

「自分が理想とする姿は、チームの全員がプロフェッショナルになる、そのための自分が果たすべき歯車のイメージを作る感じかな」

「そうなんですね。ではまずチームがプロフェッショナルになるために、今回の若手社員がプロフェッショナルとして足りないことは何なのかを
次回のセッションまでに洗い出してみてもらえますか?」

45分のセッションはあっという間に過ぎた。セッションの中で気づいたいくつかのポイントを、myPeconのボードに入力し、パソコンを閉じた。

管理職になると忙しい時間を効率よく使うために、瞬時の判断力は上がってきたと思う。
AときたらBというようにその時点で想定されることの中で正解を導く短期的な意味では間違ってはいないと思う。

でもこうしてセッションをしてみると、自分が定年を迎えたときのような気分で、やり残したこと、もう少しこうすべきだったかもという考えがじわじわと見えてくると感じている。

脳の使い方が違うというか、時間がありさえすれば考えるべきことを普段は隅に追いやって処理能力を高めているのだが、
それがmyPeconでセッションをしていると真正面から向き合うことができている。

自身がやるべきことが見えてきた満足感に浸っていると、妻との約束を思い出した。休暇の予定を調べるために私は再びパソコンを開いた。
<次回に続く>