【コーチング導入事例】神戸市立医療センター中央市民病院 教育担当者育成プロジェクト2018

大事なのは患者さんのことを知ること

−実際にどんな場面でコーチングを活用していますか。
岩倉:専門の糖尿病の分野でも今、コーチングは非常に注目されていて興味を持っていました。同じことを言っても、患者さんに伝わることもあれば伝わらないこともあるので伝える内容を変えていかないといけないなと日々思ってもいました。1000人くらい患者さんを診ていて、3ヶ月に1回くらい顔を合わせるので、これはコーチングを活かすしかないなと。患者さんのコミュニケーションタイプを分類してアプローチを変え、これは上手くいったなとか上手くいかなかったなということを確認しています。例えばこの患者さんは数字に非常に関心があるということであれば、「血糖コントロール良くなっていますね」よりも、「ヘモグロビンA1cは血糖値のコントロールの指標なんですよ。その数値がこうなっていますね」と伝える。数字を気にしている患者さんは、「前回はこうでしたよね」と覚えているので、数値をきちんと伝えないとモチベーションが上がらなくなってしまいます。今後は相手のタイプをチェックしてそれに合わせてアプローチをしていき、結果や診療のスキルが上がったか見ていこうかなと思っています。まだ患者さんの人となりを知るところまでは十分できていませんが、毎回患者さんの新しい側面を知っていって、いろいろな要素を知るというのが大事だと思います。
実際に糖尿病の世界では患者さんを知るということはすごく重要で、例えば患者さんが高齢であれば、患者さん本人だけでなく、キーパーソンとなる家族の存在があるかないかは治療法を選択する上で非常に重要な要素になります。患者さん本人だけでなく家族を巻き込んで一つのチームになって治療する方が上手くいくケースが多いです。だから、家族と暮らしているのか一人暮らしなのかなど、色々な背景情報を得ていくことが大事です。患者さんと医者の一対一の間だけで情報が十分取れないときは、看護師さんやクラークさん、栄養士さんから情報をフィードバックしてもらってアプローチの仕方を変えていくことが必要です。そこにもっとコーチングを活かしていくことはできるかなと思っています。

愚痴を言っても、最終的にいい方向に持っていければいい

岩倉:今はアカウンタビリティが高い状態なのでこういう風に言っていますけど、1ヶ月前はもっとビクティムで「3分間診療でこんなことできるわけないよ」と思っていました。

近藤:忙しいときはビクティムになりますね。スタッフが多いので忙しさが均等ではなくて、そうすると自分が忙しいときには「なんで自分じゃないといけないのか、なぜ自分だけが忙しいのか、」と考え出してどんどんビクティムになっていきます。コーチングを学んでから、自分がビクティムになったときは必ず気心が知れた先生を呼んで、「ちょっといいですか。ちょっとの時間で良いので愚痴を聞いてください。」とお願いして、バーっと思いを話して、それで少し気分を良くしてから、完了できそうなことを見つけて先へ進むようにしています。逆に普段何も言わない先生から「ちょっといい?」って話しかけられたら、この人は結構ビクティムになっているんだな、と思うので、「何でも言ってください。どうしましたか?」と言って積極的に聞くようにしています。「そうですね。そうなんですか」を繰り返したりとかすると、この間こんなことがあってねとどんどん話してくれて。「ああ大変でしたね。じゃあ、今後どうしますか」と、聞くとちょっと良い感じになっていって、これがコーチングかなと酔いしれたりして(笑)。日頃ちょっとした愚痴を言うとかそういうことでも、それで少しスッキリしたり、いい方向に持っていけたりすれば悪くないんじゃないかなと思います。

岩倉:例えばビクティムな状態の人と話しているうちに自分もビクティムになる可能性があるのではないかなと思います。糖尿病治療の世界でも「クリニカルイナーシャ(clinical inertia)」と言って、こんなものでいいだろうと治療者が思ってしまうことが問題視されているのですが、よっぽどアカウンタビリティが高い状態じゃないとビクティムに飲み込まれてしまう可能性があって、ビクティムになりそうなときの対処法は見つけておかないといけないと思います。さっきの近藤先生の話も、ビクティムな人の愚痴を聞くけれど、最後にアカウンタビリティを上げることで終われているのがすごいと思います。

坂地:自分は癖というか、演じるというのがビクティムを脱出する切り替えになっている気がします。ちょっと各部門をラウンドしようかというときには技士長を演じるというか。でも普段は「自分だめやなー」とビクティムになっていると感じることが多くあります。

近藤:それはビクティムというか、自分への評価が厳しいんじゃないですか?自分自身が厳しいので、「これじゃあかん、どうにかしよう」と思う。普段、自分に厳しく考えない人であれば、「このままでもなんとかなるわ」となっている。

岩倉:本当にビクティムであれば、外に出た時も格好つけてやろうとはならないと思いますね。外に出ないで引きこもる感じになると思います。

坂地:どうなんでしょう、照れますね。普段あまり褒められることがなくて恥ずかしいです(笑)。