1.雇用創出による就業率の増加
2017年の若年層の韓国の失業率は10.3%。日本のそれが4.7%なので、実に2倍以上の開きがある計算です。「財閥」と呼ばれるサムスン電子や現代自動車のような大手企業と、中小企業では給与や待遇面に大きな差があります。皆が一斉に大手企業への就職を目指し、針の穴を通すような就職戦争が未だに続いているのです。新法案の施行による、労働時間の減少で人員の確保が免れないとなれば、雇用の創出が期待されます。まだ目に見える効果は見えていないものの、失業率の回復も期待されています。
2.余暇時間の増加に伴う消費拡大
1日の労働時間が3時間短縮されるとなれば、退社後に家族と時間を過ごしたり、趣味の時間に充てたりすることができます。韓国では社会人になってからも語学学習やビジネススクールに通う人が多く、私が通ったことのある英語のスクールは、出社前の社会人向けの早朝6時台から夜遅い時間までレッスンが開講されていました。退社時間が早まるとすれば、このような習い事はもちろん、映画やレクリエーション、飲食などによる消費の拡大も期待されています。
3.雇用主の経済的負担の増大
新法案の施行にあたり最も懸念されているのが、雇用主側の経済的負担と、それに派生する問題です。1人あたりの労働時間が減り労働者が増えればそれに伴う費用も増大します。韓国では、2016年には6030ウォン(約594円)だった最低賃金が、2019年には8350ウォン(約822円)と3年の間に38%も上昇しました。雇用者の増加、そして賃金の上昇という2つの負担が中小企業の経営者には重くのし掛かります。
4.勤務時間の縮小による賃金の減少
雇用主側だけではなく労働者側が抱える問題もあります。長時間の残業や休日出勤、夜勤などがなくなれば、これまで発生していた手当が受け取れなくなってしまいます。残業手当などを多く受け取っていた場合は、手取りの給与が大幅に減少してしまう可能性も考えられます。また、外回りが多く労働時間の測定が難しい営業職などの場合は、みなし残業手当などが減額され、労働組合との葛藤が発生する可能性もあります。残業時間の規制を厳しくするだけでは、労働時間は短縮されません。対策のない法令施行は、勤務時間の過少報告や自宅への持ち帰り仕事など、本末転倒の結果を招いてしまいます。빨리빨리(パルリパルリ:韓国語で「早く早く」の意)文化が根付き、瞬発力のある仕事ぶりが特徴の韓国社会、また成果主義が根付いていることも残業を助長させているのかもしれません。
働き方改革のためにあなたは何をしますか?
日本、韓国ともに働き方改革の推進により、変化が起こっているものもあれば、施行後時間が経つに連れ、問題が浮き彫りになっている部分も出てきました。企業としての対策も急がれる一方、ひとりのビジネスパーソンとしてあなた自身は何を改革できるのでしょうか。働き方改革のために、今日から始めること、やめることを考えてみませんか。
延世大学一般大学院 修士課程修了
専門学校教員として多国籍に亘る講師のマネジメントや
学生の育成に携わる中で、ティーチングとコーチング手法の掛け合わせに関心を持つ。
コーチングを通した人材開発に携わりたいとの想いから、コーチを志す。2018年8月よりフランス在住。国際コーチ連盟アソシエイト認定コーチ、(一財)生涯学習開発財団マスター認定コーチ