今回は株式会社ワンモアグラスの代表取締役である篠原直樹さんにソムリエとして仕事をする上で大切なことをお聞きしました。
1つのワインを何通りにも表現する
−ソムリエになったのはどんな経緯からでしたか?
大学を卒業したときに、とにかくサラリーマンになりたくなかっただけなんです。学生のときに映画をたくさん見ていたので、映画でも作ろうと浅はかなことを考えてしまいまして、就活もしないで大学をそのままポンと出たんですね。当然上手くいかず、早々に挫折して典型的な大卒フリーターが出来上がった。それで22,23歳のときに色々やってみた中で飲食業に面白みを感じました。やっていくうちに何かスペシャルな領域がほしいなと思うようになり、バーテンダーかソムリエがいいなと。当時夜型の生活にうんざりしていたので、ちょっとでも早く寝られる方を、と考えてソムリエにしました。きっかけはそんな感じでいい加減ですが、やってみたら自分のバックグラウンドとフィットする部分もあり、何よりワインが本当に美味しくて、ワインの世界にぐいぐい引き寄せられていきました。
−ソムリエには特にどんな能力が必要ですか?
専門知識やテイスティング力に注目されがちですが、もっと大事なのはコミュニケーション能力とプレゼン能力です。1つの質問に対して5通りくらいの答え方ができないといけません。「これはどんなワインですか?」と聞かれたら、ワインに詳しくない人には「酸っぱい白ワインです」と分かりやすく答えないといけないし、ワインに詳しい人には「これはあの生産者の弟子が今度立ち上げたドメーヌで…、酸味はこうで…」と。同じことを相手に合わせて何通りも説明できないといけない。初見で「この人にはこういう説明がフィットするな」ということも感じ取らないといけない。すごく高いコミュニケーション能力が必要だと思います。
レストランだったら一杯目のグラスのオーダーの仕方で分かります。ワインって「オタクの世界」という側面もあります。僕もオタクですから、オタク同士はビビっと速攻で分かる。そういう人にはそういう人が喜ぶ話をします。逆に、どうオーダーをしていいか分からなくて、オーダー自体に気後れを感じている人にソムリエが「グラスワインどうしましょう」と聞くのは良くない聞き方です。HOWやWHATで聞くのはビッグクエスションと言われ、回答者にとってハードルの高い質問です。お客様に心理的な負担をかけてしまう。この人はあんまりワインを知らなさそうだなと思ったら、「スッキリした白ワインとコクのある白ワインと、おすすめのものは2つあるけどどちらがいいですか」と2択にするなど、答えやすい質問にしてあげるということも必要です。そういう意味で、ソムリエに要求されるものは実はかなり高いのだけど、現実に東京のレストランシーンでソムリエ達がそれをどのくらい実現できているかは結構ばらつきがあると思います。