感情にのまれず、第三者の視点から見る
ピアニストって、一部のトップクラスの人たちは自分のピアノをかついで演奏会を回るんですけど、一般的にはその場にあるピアノが自分のピアノになるんです。それを最初の一音でポンって弾いたときに自分の納得出来る音に調整できる人たちがやっぱり凄いと思うし、そういう意味で最初の音を弾いたあと音を調整していく力っていうのは大事かな。私もまだまだ修行中です。あと私の課題なのは、客観的に自分を見ること。ちょっと没頭しやすいから(笑)。
−演奏中に自分の演奏を第三者的にも見ることができていないといけないんですか!?
本当は空間に出ている音を聞きながらコントロールをする力が必要なんだけど、それは何度場数を踏んでも毎回本当に勉強ですね。
−プレゼンで自分が話す内容に集中してしまって、相手にどう聞こえているかが見えていないのと同じだなあ。
自分のやりたいイメージが出来ているわけじゃないですか。こういう風に見て欲しいとか、こういう音を聞いて欲しいとかいうのがあって、それを自分ではやっているつもりだけど実際に会場に届いている音は違うふうに聞こえているなとか。
−それはどうやって気づいて、どうやって調整するんですか?
演奏中にドツボにはまってしまったら、その日は自分の感情にのまれて終わってしまうこともあります。でも「あ、今日はうまく弾けたな」っていうときは客観視できているかな。「ゾーン」みたいな、自分が弾いているのにもう一人いるみたいな感覚になるのがベストっていうのを本で読んだことがあって、その感覚に近づけるように頑張らないといけないと思っているけど最初から最後までその感覚で弾けるかと言われたらまだまだですね。
−「ゾーン」のとき、自分は自分の演奏を客観的に見ているから演奏に没頭して気持ちいいというわけではない、こういうことですかね。
そうです。失敗したけど周りの人たちがよく勉強してるねと言ってくれたとき、これまでと何が違ったんだろうと思うと、自分の演奏を客観視して結構冷静に弾いていたなと思う。楽譜を見ながら本番に出ることもあって、そのときは楽譜がある分冷静に、第三者の視点から見ることができている感覚が強いから、そういうときはやっぱり評価も高い。没頭して弾いているときは多分あんまり評価がよくないんじゃないかな。
小池彩夏 Ayaka Koike
1986年生まれ。国立音楽大学演奏学科(ピアノ)卒業。鹿児島県文化振興財団アーティストバンク登録アーティスト。現在、フリーのピアニストとして各地で演奏活動を行う他、後進の指導にあたっている。