病院経営者にとって必要なことは何か 山根哲郎先生

今回はパナソニック健康保険組合松下記念病院の院長であり、現在も様々な場面でご活躍されている山根哲郎先生に病院経営についてのお話しを伺いました。

経営職に求められるのは、異業種の人たちと信頼関係を築く力

−病院の経営職には、医師に求められる力とは違う能力が求められるのでしょうか。
そうだと思います。たとえば勉強のために専門書を読むことは必要ですが、ある程度の歳になり、病院の幹部になると専門職の仕事以外のことも求められるようになります。異業種の人は、お医者さんというのは自分の専門分野である医学にしか興味がないと思っていることが多いです。でも、自分の専門分野にしか興味のない人や他の話題のない人とはあまり近づきたくないですよね。

−医学書を読むことにどっぷり浸っているだけでは経営職になるには十分でないということですね。院長に向いているのはどんな人ですか。
多方面から物を見ることができる人です。なぜなら病院は患者さんを相手にするところだから。患者さんは医療者とは違います。全然関係ない異業種の人たちの集まり。医学の話だけしていただけでは信頼関係を築いていくことはできません。全く違う仕事、立場の人がどんなことを感じ考えているのかを理解できる必要があるし、そうできるようにトレーニングされていることが必要だと思います。自分が院長になって初めてその必要性に気づく人も多いです。

−山根先生から見た、院長になるための必須条件とは何でしょうか。
人格者であることです。組織内のマネジメントが得意である必要もないし、人事部長のようである必要もない。人格者であればその人のもとに人が集まってきます。一人でできることなんて知れているでしょう?どんなに優秀な人でも、5人力、10人力を発揮することはできません。優秀な人を見つけて、その人たちにやってもらえばいい。院長が患者を増やせと言ってばかりではなかなか人は寄ってこないし、付いて来ない。上に立つ人はちゃんと人格を磨いていかないといけないと思います。

ポジションが人格を磨く機会を作る

−「人格を磨く」のは簡単ではないですよね。
自分で「人格を磨こう」と思わないとダメでしょうね。自己研鑽、それしかないと思う。僕も自分が人格者だとは思いませんが、そうあろうと努力はしています。そう思うようになったのは、院長になってからかもしれません。僕がもし外科部長のままだったら、外科の患者さんと自分の部下のことしか考えていなかったと思う。新しいポジションが自己研鑽をしようという姿勢や人格を磨く機会を作っていくこともある。経営者になる前にすでに人格者だったらいいけど、そんな人はなかなかいません。ポジションが変わってから取り組んでも遅くはないと思います。

−山根先生が人事を考えるとき、「この人が役職に付けば、人格を磨くようになるだろう」などという想像もされているのでしょうか。
それはありますね。僕は、院長になる人は必ずしも有名なお医者さんとか、腕のいいお医者さんである必要はないと思っています。それよりも「院長になったら自分を磨いて人格者になって、みんなを牽引していこう」という気概のありそうな人をいかにして見つけるかを大事にしています。人から言われて人格を磨く必要性に気づく人もいると思いますが、最終的には本人がそう思えるかどうかです。自分の人格形成に重要な影響を与えてくれる人が周りにいても、その意味するところが分からなかったら自分ごととして取り組まないですしね。