教科書のない取り組み –豊かな最晩年をつくる− 医療法人社団慶成会 青梅慶友病院 理事長 大塚太郎先生【前編】

病院と言うよりむしろ旅館をやっている感覚

具体的にどのようなことに力を入れていますか。

人生の今日1日を、この1時間を心地よい時間にするためにはと考えると、たとえばすごく痛い思いをしている人は鎮痛剤や点滴で痛みを抑えることでその1時間を心地よい時間にできることもあるし、ご家族と美味しいケーキやうなぎを食べる、あるいは、ベッドごと外に出て桜の中に身を置くことで心地よい時間がすごせることもある。無数にケースがあるわけです。

人生の最後の時期を豊かなものにしようと思えば食事も大切な要素です。毎日3回の食事が美味しいことに加えて、ハレの食事を楽しむ時もあるといいだろうと思い、「美食倶楽部」というコース料理や寿司などを楽しむ食事会も開催しています。また、散歩ができる広い庭があれば季節の移ろいを楽しむこともできますし、会話ができなくても一緒に過ごす時間を共有することができる。家族だけで利用できるスペースも用意してありますので、誕生日会などを機に親戚一同がおばあちゃまを中心に大勢集まり祝うこともできます。体調の急な変化があったとしても日頃過ごしている病院内ですので安心でしょう。それはたぶんご自宅にいたらできることではないし、リクライニングの車椅子じゃないと起きられない人がご家族とレストランで時間をすごすということもなかなかできないことです。我々の病院は、そういうご家族のよき時間やよき瞬間をつくるための色々な仕掛けやしつらえがあるという感じかもしれません。人生最後を豊かに生活するための引き出しをたくさん持つことで、誰もが必ず迎える親の最期、伴侶の最期に向き合う時間をよきものにするための環境を整えているというのかな。病院と言うよりむしろ旅館をやっている感覚に近いですね。

−医療者だからこそできることや、貴院の職員に求められることは何でしょうか。

高齢者の人生最後の生活においては医療という引き出しが役立つことも多くあるので、病院という仕組みでやっている良さや必然性も当然あります。同時に医療というバックグラウンドがあることによって不要な医療も判断できる。この医療がこの患者様にとって本当に必要かどうかの判断は、やろうと思ったら医療をやれる人が判断しないと納得性はないですよね。この患者様には医療よりも他の引き出しのほうがもっといいと判断できるのも医療者の役割と考えています。

当院の職員には医療者として高い倫理観を持っていることに加えて、高いサービスマインドも求められます。医療や介護だけやっていればその人の最期が豊かになるわけではない。無数に引き出しがある中で、この患者様、ご家族様に何をコーディネートしたら一番いいのかというのを考えないといけない。うちの職員はコーディネーターでありエンターテイナーであって欲しいと思います。

大塚太郎 Taro Otsuka

医療法人社団慶成会青梅慶友病院 理事長
1973年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒、順天堂大学医学部卒
順天堂越谷病院、順天堂高齢者医療センター等勤務を経て2010年4月より現職。
医学博士・精神保健指定医。