今回は、東京・白山でワインショップCellier de L’oursonを経営されている伊東さんにインタビューさせて頂きました。伊東さんはSE を10年間、山梨のワイナリーで13年勤務された後、5年前に独立されました。
「ワイナリーを巡ってるときにビビっと来ちゃったんです」
――伊東さんのワインとの出会いやキャリアについてお伺いできますか。
学生の時は、自分で何がしたいというのがわかっていなかったんです。大学でコンピューターの授業を受けていた流れでとりあえずSEになって、そのまま10年働いていました。
入社して何年か経った時に、北海道を1周しながらワイナリーを巡ったんですが、その時にビビっと来ちゃったんです。もともとお酒は好きで、社会人になってから、もしかしたらワインに関わる仕事がいいんじゃないかと思ったこともあるんですが、その時はただの夢物語で、それが10年働く中で現実的になってきました。
「自分はこのままでいいのだろうかと考えるタイミングは誰しもあると思うんです」
――ワインの仕事につきたいというのはSEをされている間にずっと思っていたのでしょうか?
初めは全く思っていなかったですね。当時、SEと言えば花形の職業で食いっぱぐれることはなかったのです。
でも残業も多くてずっと続けられる仕事ではないとは思っていました。自分はこのままでいいのだろうか、って考えるタイミングが誰しもあると思うんですが、私自身そういったことを考えるタイミングでワインと出会ったことも関係していると思います。もう大決断で、親にもかなり心配されました。
そしてワイナリーへ就職
――SEがいきなりワインのプロとしてワイナリーで働くのは難しいように思います。
大手は基本新入社員ばかりなので私のような中途は無理です。山梨のワイナリーは中小企業が多いので即戦力でないと採用されない。ワインの知識はゼロなので、過去の経験を生かして自分にできることをアピールして入社しました 。
入社した山梨のワイナリーでは、販売促進や企画に関する仕事をしながらワインの勉強をして、最短の3年で日本ソムリエ協会のワインアドバイザー(今は呼称が変更されソムリエ)の資格を取りました。小さい会社なので醸造の手伝いや、営業、接客、なんでもやりました。就職活動をしながら独学で勉強したイラストレーターやPhotoshopの経験を生かしてチラシを作ったりもしましたね。
――ワインの業界に入って、その後はどんなキャリア像を描かれていたのでしょうか。
最初は全く何もなくって、ただもう爆走するだけ(笑)。知識ゼロの状態からとにかくひたすらやっていて、2003年に資格を取って、2004年、2005年にはワインコンクールの全国大会にで決勝に残れるまで勉強したり、独学で何度もフランスのワイン産地を見に行ったり、そしてシニアワインアドバイザー(今は呼称が変更されシニアソムリエ)も取得、いろんなことにチャレンジしました。
ワイナリーを退職する2年ほど前からお店をやろうと思い始めて、2013年に山梨を離れて、2014年に独立しました。
小さな経営であるほど人と違ったことをする、尖ったお店づくり
――なぜお店を持たれようと思われたのですか?
実家がここ(現セリエデルルソン)にあったので、この家を守りたいと思ったのがきっかけです。10坪ほどなので、飲食店をするには狭いし、人件費もかかる。だから1人でできるのはワインショップだと思いました。
ただ、800円で仕入れて1000円で売る仕事なので儲けが少ない。飲食店だと800円で仕入れて2000円で売りますから、利幅が全く違うんですよ。東京に飲食店がいっぱいあって、ワインショップが少ないのにはそういう理由も1つで、熱意がある人はワインショップをやっているけれど、儲からないんです(笑)。
でも、自分がやりたかった仕事が見えてきたので嬉しくもあります。リスクと表裏一体なんですが、いいお客さんに恵まれて細々とやっています。
――独立されてから、インポーターとの繋がりや、海外の生産者との繋がりはゼロから開拓されたのでしょうか?
ワインコンクールで全国大会に出た時のご縁や、ワイナリー勤務時から月1回ほど都内に来て独学でワイン会やワインスクールに通っていたので、その時の繋がりはありました。その信頼があって、「伊東さんだったらいいよ」って売掛ですぐ取引させてもらうことができました。自分で新規開発したインポーターと取引するときも、最終的に全部売掛で取引してもらえるようになりました。
――販路を広げる上で意識されてたこととかありますか?
相手の信頼を勝ち取るために、お客さんを絶対に裏切らない。インポーターの試飲会に行っても、絶対ブレないし、気持ちが動くものしか買わない。そこはもう徹底的にやっています。チリがあって、アルゼンチンがあって、ジョージアがあって、ドイツが置いてあって、こっちにはアメリカがある、みたいなお店にはしたくないんです。私は私が訪れたことがあるワイン産地のものを中心にイタリアとフランスだけで深く尖りまくる、徹底的にやっています。
場所も限られているから尖るしかない。小さな経営であるほど、人と違うことをやらないといけないっていうのは帝王学の基本だと思っています。
「自分なりのキャラクターで勝負する」
――伊東さんにワインをお尋ねすると、「泣いちゃうような」「ミルクセーキ」など、説明される際に独自の表現をされます。どのような意図があるのでしょうか。
カッコいいことを言うと、店の味を出すために、自分なりのキャラクターで勝負するしかないと思ったんですよ。自分なりの表現っていうのはたぶん子どもの頃にできたんだと思います。実は、本を読むのが大嫌いな子供だったんですが、星新一さんの本がすごく好きなんです。ひとつひとつのストーリーが短くて、ひとつ読む達成感がすぐ来るんですね。表現力はもしかしたら星新一に育てられたのかもしれないです(笑)。
ソムリエには、なめし革とかアーモンドとか、標準化の表現があります。それを基本としながら自分なりの表現を探しました。日本人である以上、日本らしい表現がしたい。ライムとか青りんごとか表現するようなところを、日本らしい表現を使って、「かぼす」と言ったりします。あとはきなこもちとか、草餅とか、よもぎ饅頭っぽいなんて表現することもありますね。やっぱり日本人にわかりやすい表現をしたいんです。お堅い表現をしても誰も読んでくれない。店内POPカードのデザインも自分で考えているんですが、お客様に読まれないものを作りたくないし、他にはないものを作りたかったんです。