―コーチングをはじめたきっかけを教えてください。
もともとは社会人としてIT系企業でシステム開発に携わっていました。ソフトウェア開発を進める中でプロジェクトマネージャーを任されるようになったのですが、当時は自分の知識や経験に自信があり、メンバーの話を否定したり、自分の意見を押し通したりしていました。
そんな中、人事異動でネットワーク構築の部門に異動になり、全国規模の金融機関向けプロジェクトのマネージャーを担当することになりました。ネットワーク構築の知識がまったくなく、口を出すにも出しようがない、という状況でした。そういった中で「自分にできること」を考えた時、それは話を聴くことでメンバーが働きやすい環境を作ることでした。
ある日、「何も言ってやることができなくてごめんね」とメンバーに伝えたところ、「木村さんは今のままでいてください。話を聞いてくれるから、自分の考えが整理されるんです。」と言われました。正直、「あれ、それでいいの?」と思いました。そうしているうちに、「こう考えているけどどうですか?」とメンバーの方から話しかけられるようになり、その度に「なぜそう思うの?」「どうして自分自身でこれで大丈夫だと思う?」と話を聞いていました。結果的にはそのプロジェクトは約4年間大きな問題なく無事に完了し、今でも一番思い入れのあるプロジェクトです。
コーチングに出会ったのは、その数年後、プロジェクトマネージャー育成の施策に携わっていたときです。当時、若手プロジェクトマネージャーのリーダーシップ強化が課題となっており、行動変容を促すためにストレングスファインダーを活用して「個々の強みを活かしたリーダーシップのあり方」を考えていました。その過程で、コーチングというものの存在を知りました。コーチングの話を聴いているうちに「自分が以前やっていたことは、ひょっとしてコーチング?」と思い、「これなら自分にもできるかもしれない」と本格的に学び始めました。その延長で、こうして仕事にするようになり、独立して今に至っています。
―今の木村さんからは想像がつかないです、スタートは真逆だったのですね。
昔の自分は、人の話をまったく聞かないタイプでした。それが今ではコーチとして人の話を聞く仕事をしているのですから、自分でも人生が大きく変わったと感じます。知識のない領域に異動し、「話を聞くしかない」という状況に置かれたことが今の自分に繋がっています。
先ほどコーチングについて「これなら自分にもできそう」と思ったと話しましたが、そう思った理由が実はもう一つあります。それは、飼い犬との関わりでした。ボーダーコリーという犬種を飼っていた時のことです。この犬種は、そもそも牧羊という仕事のために交配されてできた犬種だったので、羊を追わせたくなって、10年くらい毎週牧場に通い、シープドッグのトレーニングをしていました。ただ、僕は犬がどうやって羊をコントロールするのかはわからないし、その方法を教えることもできないですよね。犬が自らそのやり方に気づくまで、こちらはさまざまなアプローチを試みながら、時には承認しつつ、フィードバックしつつ待つ。コーチングの話を初めて聴いた時に、「自分が犬にしていたのはトレーニングではなくコーチングだったのだな」と思いました。と言いつつ、犬との関わりの中でも同じように、最初は犬に細かい指示を出しすぎてプレッシャーを与え続け、犬の心をへし折ってしまったこともありました。スタートは真逆でしたね。
―木村さんがセッションをする中で心掛けていることを教えてください。
相手の持つ世界観に寄り添い、その土俵に自分から飛び込んでいくことを大切にしています。
例えば「この人が大切にしているものは何だろうか」「この人のエネルギー源はどこにあるのか」といったところにアンテナを立てたりしています。あるいは、「ここにニーズがありそうだな」「このニーズに無意識に振り回されているかもしれない」といったことをキャッチするようにしています。
ユーザーがどのように考え、どのような世界を見ているのか。そこにちゃんと入り込んで話を聞くために、比喩やメタファーを使うことも多いですね。たとえば、「メンバーと同じ車に乗って動いている感じがしますね」と言われたら「今、どのシートに座っていますか?」と聞いてみたり。そういったやりとりを通じて、相手とイメージを共有していくことを心掛けています。
―今後木村さんが挑戦していきたいこと、目標にしていることはありますか?
今年5月末に法人化し、「働く人が幸せを感じながら働ける環境づくり」の支援を企業理念として掲げました。
今後は経営層とのコーチングにも関わっていきたいと考えていますし、その一環として「中小企業診断士」の資格取得にチャレンジしたいと考えています。相手の話の感覚をもっと深く理解するためには、同じ目線や知識があるとより共感しやすくなると感じているからです。
―これから初めてコーチング受ける方へのメッセージをお願いします。
普段はあまり意識していないことでも、コーチングを通じて話すことで気づきに変わることがあります。僕自身も最近、自分の会社のホームページをどう作るかという話をコーチにしていたときに、「人にアナウンスするため」ではなく、「迷ったとき、自分が法人化した原点に立ち返るため」に作りたいのだと気づきました。
こういった発見は、1人で考えているだけではなかなか得られません。難しく考えずに、まずは気軽に話してみてください。きっと自分の中に新たな発見があると思いますよ。












