コーチングが機能しない場合・注意点

組織内コーチの限界

「コーチングとは?歴史や目的、活用事例を紹介」で触れたように、日産自動車のカルロス・ゴーン氏がコーチングを取り入れたことなどから、組織内でコーチを育成し、マネジメントに活用する取り組みは広がりを見せています。近年ではヤフーやSansanなどITサービスを提供する企業やベンチャー企業でも組織内コーチを育成し、活用しています。組織内コーチを育成するメリットとして、コーチを育成するノウハウを蓄積していくことができる、外部委託よりコストがかからないため、多くの社員がコーチングを受ける機会を得られるなどが挙げられます。しかし同時に、組織内コーチの限界もあります。
上司が組織内コーチとして部下のコーチングをする場合、上司は日常のコミュニケーションの中でコーチングスキルを活用し、効果的に部下の目標達成を支援することができます。しかし、上司が部下の評価者であることが多いため、コーチングを受ける部下が評価への影響を懸念して、自由な発想や発言をしづらくなったり、本音を言わなくなったりすることもあります。また、組織内コーチが自分の知識や経験に絶対的な自信を持っており、部下に教え込みたい欲求を抑えられない場合、ティーチングやアドバイスをコーチングの中に織り交ぜてしまうということも起こります。すなわち、上司が部下にコーチングを行う場合は、評価者としての立場の切り分けや他の手法との使い分けが難しくなるため注意が必要です。このような弊害を避けるために、業務上接点のない人同士がコーチ・クライアントとなっているケースもあります。 業務上接点のない人がコーチになる場合、コーチは自身の知識や経験からアドバイスが少なくなり、またコーチングを受ける人も評価を気にせずに発言がしやすくなります。ただし、お互いの背景や業務内容をよく知らないため、信頼関係を構築するまでに時間がかかることもあります。コーチングを受ける人が安心して話ができるよう、十分に信頼関係を築くための時間をもってからコーチングを始めることが必要です。
このように、組織内コーチにはマネジメントラインでコーチングを行う場合と業務上接点のない者同士でコーチングを行う場合とがあり、両者ともメリット・デメリットがあります。共通するデメリットとして、2つ挙げられます。1つ目はコーチとクライアントが同じ組織に所属しているため、転職や人間関係のことなどを率直に話すのが難しいことです。2つ目は、組織としてコーチングを行っているため、コーチングで設定する目標が組織内の活動に限られてしまい、コーチングを受ける人がやらされ感を抱く場合が挙げられます。一方、プロコーチからコーチを受ける場合はこのような懸念がないため、自身の目標達成に向けて率直な話をすることができます。


自分もコーチをつけてみる