今回は、国際コーチ連盟(ICF) マスターコーチであり、プロコーチとして活躍されている森川里美さんにお話を伺いました。
自分と全く別の耳と目と脳と口を活用する
−コーチはコンサルタントのように答えを教えてくれるわけではなく、問いかけるアプローチを取ります。コーチをつける意義は何でしょうか。
自分以外に、もう二つの耳と、二つの目と、もう一つの脳と口を持つことでしょうか。自分一人で考えているとぐるぐるするところを、もう一つの脳と口からの質問やフィードバックで「あ、そうか!」と縛りが外れたり視界が開けたりしますよね。コーチをつけることで目標に早く近づけるということはもちろんですが、それよりもっと重要なのは、フィードバックをもらい続けることだと思います。自分が今どう見えるのか、表面は鏡を見ればある程度分かるけれど、内側については分からない。
「内側を写す鏡なんていらない」と思ってしまうほど辛いものを持っている人がコーチをつけると、あまりの痛さに飛び上がってしまうかもしれません。そのときはコーチをつける時期ではない。もう少し自分で癒す時期なのかもしれないし、カウンセラーが必要な時期なのかもしれません。しかし、普通に生活できている人が、自分の内側がもやもやしていて、どうしたらいいかと思うときであれば、コーチをつけて自分の内側を表に出して見ていく作業に取り組むことができます。
見えないものはハンドリングできないから不安だし、なんとも言えない嫌な感じがある。でも見えてくると、それならどうしようと対応することができます。なんだか熱があって体調が悪いという状態が3ヶ月も続いていて、病気なんだろうかと思っているときに、お医者さんに「アレルギーですね」と言われると「アレルギーなんだ!」ともやもやが晴れる。正確な答えでなくても、見立てがほしいんですよね。あるお医者さんはアレルギーだと言って、ほかのお医者さんは風邪だと言ったら、その中から自分で考えてもいいし、もう一人お医者さんに診てもらってもいい。そこで情報を得ることはできます。そうすると自分はどうしていくかという次の一歩を踏み出すことができると思います。
ハンドリングができないことに不安を覚えるのも人として当然だと思います。しかし何かに効率的に近づきたい、もっと時間を有効に使いたいというときは、目の前の時間をどう使おうかと考えるよりも、心の中の何とも言えない「もやっ」としたものや頭の中を占めている未完了などを片付けていくほうが、実はエネルギーが上がる。コーチングは、押さえになっているものを外していくプロセスだと思います。私たちには、自分が何かこうしたいなと思っているときに知らないうちにつけている砂袋みたいなものがある。「気がかり」や「変なところでくよくよしてしまう」ことや、「何でなんだろう」とぐるぐるする思いは、実はとても重たいと思うんです。そこに気づかないとそのままずっと砂袋は増え続けてしまうけれど、コーチングを受けていくと「あ、これが気がかりだったんだ」とか「今後3ヶ月この砂袋をつけてダメだったらこの砂袋は切ろう」とか、方針を決めていくことができる。方針がはっきりするとそれだけで砂袋自体が軽くなったりもします。
自分で自分がどんな生き物か分からないより、分かってしまったほうがいい。何か分からないものや、もやもやしているものを外すことで本来の自分がはっきりしてきて、ものすごく軽やかになります。その軽やかになった人を見ると、「あの人はなんであんなに軽やかで素敵なんだろう」、「あの人変わったよね」と人が近づいてくる。無理に自分を変えていく必要はない。変えるのではなくて、本来の自分が明らかになっていく。そのプロセスは痛みを伴うこともあるけれど、本来の自分を取り戻せていきます。生きていて本当によかったなという、そんな人生を生きられることに、コーチングはとても機能すると思います。