逆境を自分の追い風に変える~人格者と言われるプロ経営者を志して~

今回は2019年に起業したペルソナ株式会社のCEOの佐野弘晃さんに、起業するまでのストーリーと現状、これから目指す姿についてお話しを伺いました。

逆境を自分への追い風に変える

―佐野さんは、人材業界、コンサルティング業界の2社を経て2019年に起業されました。起業された背景を教えて下さい。
子どもの頃に、父親が経営していた会社の倒産と両親の離婚を経験した悔しさと悲しさが原点になっています。自己破産したので、購入したばかりの一軒家も含めて財産すべてがなくなりました。清算が終わって父の事務所があった場所を見せてもらったとき、使用していた機材も何もかもが撤去され、伽藍洞になっていたのを見て、幼少期から慣れ親しんだもうひとつの居場所が無くなってしまったことに衝撃を受けました。

当時私は私立中学に通っていたのですが、友達の家に遊びに行くと皆両親もいて、いい家に住んでいる。そんな環境下で自分だけが真逆の生活になり、悔しさや悲しさを強く感じました。

その後、両親は自分の養育費をめぐり離婚裁判に突入しました。仲良く暮らしていたはずの両親が、これまでとは異なる事務的なやり取りをしている姿を見るのが辛く、早く自立して一人で生きる力を身につけなればならないと思い、多感な時期と重なり両親とも意識的に距離を置くようになりました。
両親を避けるために距離を置いたつもりが、それによって両親を俯瞰できるようになり、次第に両親の立場や事情も理解できる余裕ができました。両親が会社を続けたくても畳まざるを得なかった無念を晴らそう、こんな想いが自然と湧きあがり、それまでずっと抱いていた悔しさや悲しさを、自分が立ち上がり成功するためのプラスのエネルギーに変換できるようになったんです。
その時はまだ経営者になるとまでは思っていませんでしたが、スイッチが入ったかのように必死で勉強するようになり、付き合う友達もやんちゃグループから天才グループに変えて、全く違った人種に生まれ変わりました。

中学生の時点で経営者になることは想定していなかったものの、リーダーを務める機会は多く、アイスホッケー部でキャプテンを任されたり、数百人規模のイベントでリーダーを任されたりと、周りから自然とリーダーに押し上げられることがよくありました。でも、リーダーになるのは苦労が多いので避けたかったのが当時の本音で、お互いの価値観が違えば正義が違うので、上手くまとめられる自信もありませんでした。とはいえ、リーダーとして仲間を無碍にすることもできないと思い一生懸命役割を果たすと、また次にリーダーを任されるという具合で、ずっとリーダーをやっていました。
リーダーをやるのは好きなことではなかったけど、得意なことだったのだと思います。それに私は昔から、人に嫌われるということがないんです。いつもオープンマインドで、マウントを取ったりすることにも興味がありません。器用ではないけど、自分の人生に真面目に生きている姿勢が、周りの応援を得られる理由の一つかもしれません。こういった私のリーダーとしての強みと、両親の無念を晴らす意味でも成功する会社を作りたい、そんな好奇心というか興味のようなものが経営者としての今の私を突き動かしていると思います。

―すぐに起業はされず、2社を経由した理由はあるのでしょうか。
近い友人に学生起業家もいたのですぐに起業する選択肢もありましたが、両親の二の足を踏まないよう、まずは経営者に近い立場で仕事をして鍛錬を重ねられる環境を探しました。
「企業は人なり」と言いますから、人材業界に興味を持ち始め、1社目にインテリジェンス(現パーソルキャリア)への入社を決めました。その後、より会社経営に近い目線で仕事を行うため、2社目として経営者向けにビジネス系フリーランスの経験・知見を活用した経営コンサルティングを行う、サーキュレーションに入社しました。

振り返るといつの間にか起業が目的になっていたのですが、いつからか起業を手段とし、ひとつの経営イメージを持つようになりました。当時の両親の経営者としての立場を、常に追体験しながら人材業約7年。前職ではかならず実績を残し、迷惑をかけずに引き継ぎできる状態で出ると決めていたので、約6ヶ月の引き継ぎ期間を経て、そのタイミングが2019年でした。そこで起業に至っています。

ビジョナリー・カンパニーを目指して自身の成功パターンを手放す

―実際に起業して、いかがですか。
お陰様で、周りの方々に恵まれてお声をかけていただくことが多く、お客様ともよい関係を築けていますし社員も3名まで増えています。一方で、経営者としての自分に対する課題も感じています。
私は「感覚派」で、物事を抽象的なイメージで捉えて伝えるタイプです。なので、周りから私が言っていることが分からないと言われることもあります(笑)。感覚派なので最後の意思決定を直感に頼ることが多いのですが、これまで大きい失敗をしたことがありません。ラッキーなようでいて、これがもしかしたら将来私の弱みになり得るのではないかと今は思っています。

私は死生観のひとつに「人格者」と言われるプロ経営者になる、というものがあり、日々の行動規範になっています。死生観に影響しているのが愛読書『ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則』で、オーナーが変わっても伸び続ける会社にロマンを感じ、自身の会社もそうなりたいと考えるようになりました。ビジョナリー・カンパニーを実現したいと思ったとき、今の感覚派のスタイルで経営していたら1000人、1万人規模の企業トップになったとき自分の想いが正しく社員に伝わらず前に進まないし、そもそもその規模にも到達しないかもしれない、こんな危機感を持ち始めました。
それでこの一年はチャレンジの年にして、自分の殻を破り、これまでの成功パターンから脱出してみたいと思っています。実際に社員を採用するときも、従来の直感・即決ではなく、慎重に対話を進めてあらゆるパターンを想定してから決断するようになっています。

―これから作っていきたい会社のイメージはありますか?
弊社名は「ペルソナ」なのですが、皆の象徴となるような「人と事業」を作りたいという想いが込められています。時代に合わせて事業を柔軟に変えて行く必要があるとは思いますが、すべては人ありきです。事業の前に人がある、これにこだわっています。
また、まだ小さな会社ではありますが、社会の公器として自社があると、常に意識しています。
ミッションは「世界に最良の選択肢を」と掲げており、情報社会と言われて久しい今、何を人は頼りに判断をするのか。選んだ道を正解にできるような、不確かなものを確からしさの手応えにかえられる後押しを、社内外のすべてでサポートできるようになりたいと思います。現在は事業領域を整理している段階で、みなさまへのお披露目は間も無くと考えています。

他人に対するプライド<自分に対するプライドで生きる

―経営者は特に、自分の心や思考、体の状態が自分のパフォーマンスや周囲へ影響しやすいですよね。心、思考、体を整えるためにしていることはありますか?
『7つの習慣』の考え方に基づいて作成した目標を玄関に貼り、毎日家を出るとき自分にリマインドする、日記を書くなどしています。日記は自分が今どの位置にいるのかを定点観測するために書いていて、年末年始や自分の誕生日など、節目に筆を執っています。その時々自分が何を思っているのか書くだけで、後から読み返すと自身の成長の軌跡がわかります。
コーチングも心や思考を整える一環として始めました。コーチングを受ける時の自分にはノイズ、しこりのようなものがあります。それらの正体が何なのかを突き詰めたいけれど、一人でそれを考えるのはなかなか難しい。そういう時にはきちんと時間を確保して、自分が考えていることをコーチに投げかけながら反芻します。コーチを受けることで自分の思考が深まっていくのを感じます。
因みに自分の心のコンディションを測る指標にしているのが、「落ちているゴミを拾えるか」、です。細かいことですが、人が見ていないところでも常にやれているか?、これを自身の状態を測るリトマス紙にしています。
また、体の状態を整えるために、体を鍛えたり、整体に行ったりしています。心身の状態を良好に保てていることが自己肯定感に繋がりエネルギーになりますし、自分に対するプライドに繋がります。

―自分に対するプライドとは何ですか?
私は、プライドには「自分に対するプライド」と「他人に対するプライド」があると考えています。前者は絶対的なプライドで、後者はあいつに負けたくないとか、よく見られたいとか、相対的なプライドです。私の感覚では、他人に対するプライドを持っている人が9割だと思います。他人に対するプライドで生きている人は、営業なら営業成績、SNS、例えばインスタグラムならフォロワー数など、人と比較して自分の幸せを感じるタイプだと思います。でもこの生き方は、比較するものがなくなったり人より劣ったりした瞬間に自己肯定感が下がるし承認欲求を誰かにもとめる。言い換えれば、誰かに判断される人生を生きてしまっていることとなれば、何か虚しいですよね。
本来は、自分がどうなりたいかを決めたうえで、それを実現するための努力をすることで自信や自身の幸せにつなげていく、自分に対するプライドを持って生きるほうが幸せだと思います。
他人が決めた判断基準ではなく、自分の目標に向かって、日々アップデートできているかが重要です。
自分に対するプライドを持っているからこそ、人にいい影響を与えられると思っています。

この考え方は両親の会社の倒産や離婚を経験した子どもの頃に形成されたもので、自分に対するプライドを持つことができれば、置かれている環境に左右されることなく幸せに生きることができるという実体験から醸成されています。
私の場合、心・思考・体のコンディショニングを行うことが自分に対するプライドに繋がっています。また、自分に対するプライドを持つことは人に勇気や活力を与えられる存在であるために必須と考えています。おそらく、人格者で他人に対するプライドに基づいて生きている人はいないのではないでしょうか。

会社の成功は目指しますが、それ以前に自分が経営者としてどういう人物であるかが重要で、「人格者としての自分」と「会社の成功」の両輪を実現させて両親の無念を晴らしたいと思っています。

 

佐野 弘晃 Hiroaki Sano

ペルソナ株式会社 代表取締役社長CEO