コンサルタントとしての経験を経て、ワイン業界でのキャリアをスタートされた株式会社グレープリパブリックの三ケ山 香織さんにお話を伺いました。三ケ山さんは 仕事の他に女性のキャリアをサポートするコミュニティ「山形キャリ女ラボ」の主宰や、高校生や大学生へのキャリア教育支援でもご活躍されており、2人のお子さんを持つお母さんでもあります。 【取材=myPeconコーチ 中井 茉由子 】
――三ケ山さんはいつも全力投球だなと感じてます。遅くまで仕事の話をした翌日に、都内でのイベントにパネリストとして登壇していたかと思えば、山形に戻ってママの顔になっている。早朝からランニングしていたり、朝から仕事モード全開な連絡をいただくことも。いつもエネルギーに溢れていてびっくりしています。エネルギーの源はどこにあるのでしょうか。
人よりも興味とか好奇心が強くて、「面白いこと」が好きなんです。知らないことを知るとか、向上心を持って生きたいというのがベースにあって、新しいことに挑戦するとレベルアップするような気持ちになるんです。自分が行動した結果、自分も満たしつつ相手が喜んでくれるとすごく喜びを感じます。
結婚を機に山形へ
結婚を機に山形にUターンすることになりました。山形にもどったときに、仕事や自分のキャリアについてガンガン話せる女子が近くにいなかったんです。私は仕事の話が大好きで、飲みに行くと大半仕事やキャリアの話をしている気がします。相手の方が何でこの仕事を選んだかとかこれからどうなっていきたいかなどを聞くのが大好きなんです。自分の決めた目標に向かって頑張っている人はすごくカッコいいし、刺激になる。頑張る人の人生ストーリーに興味があるんです。だから、それを共有して、参加したみんなが一緒に頑張れるような場があるといいなと思いました。
――人生ストーリー、面白いですよね。キャリアを描く中で判断をしなければならないポイントがあって、それぞれ色んなことを考えて決めるのだけれど、振り返るとひとつに繋がることも多いように感じます。
やっぱり軸は一緒ですね。人を元気にしたい、地域を元気にしたい、そしていろんなところに行きたい、いろんな人に会いたい。
会いたい人はたくさんいるので時間を作って会いに行くようになりました。東京にいるといろんな情報が入ってくるし、すぐにどこにでも行けたのですが、地方にいるとそういう機会もなかなかないんです。待ちだとチャンスもないので、とにかく機会を作って会いにいきます。そして、これは山形の人にも聞いてほしい!知ってほしい!と思ったら、講演会やイベントを企画・開催して、ゲストとしてお呼びしています。そうすることで、会いたい人にも会えるし、深い関係性が構築でき、そしてイベントに参加してくれた皆さんにも感謝されるし、といいこと尽くめだと思いました。
ワークライフバランスを取りつつ、限られた時間でやりたいことをやる
独身の頃は仕事のことだけを考えれば良かったのですが、山形にUターンして、友人、仕事、まちづくり、趣味など、多くのコミュニティに携わるようになると、エネルギーが分散してしまい、優先順位を決めないとすべてが中途半端になってしまいました。それでもやりたいことがいっぱいあるから睡眠時間は減る一方でした。
18時には保育園のお迎えに行かないといけないし、夜は子どもと一緒に寝ると決めています。限られた時間の中で、誰に会いたいか、何をしたいかをすごく考えるようになりました。
限られた時間を意識するようになったのは 子どもがきっかけでした。『ママがおばけになっちゃった』(講談社, 2015.7)という絵本があるのですが、それを読んでいる時、息子が隣でボロボロと泣きだしたのを見て、私が死ぬことでこの子はこんなに泣くのかとか、私は死ぬまでにこの子に何をしてあげられるだろうと思った時に、家族との向き合い方や日々の過ごし方について真剣に考えるようになりました。
妊娠中から子どもが20歳になるまで、子どもとの記録を綴って、子どもが20歳になったら子どもに渡す「たすき帖」というものがあるのですが、それを書いてみたら、感謝の言葉しか出てこなかったんです。「ありがとう、ありがとう。」と繰り返し、書きながら涙がわーっと出てきました。もしかしたら、明日死ぬかもしれないし、限られた時間の中で、家族のために、夫のために、やりたいことをやり尽くしたいという思いが強くなったのは、それからだと思います。
「幸せ」とか「嬉しい」とかポジティブワードを使って、ハッピーなことに対する感度を上げるよう意識をしています。「幸せ」や「嬉しい」とか今ある幸せに焦点をあてないと、悲劇のヒロインになってしまうんです。「私ってこんなに頑張っているのに何で誰も認めてくれないのー!!」って、ドツボにはまっちゃって、夫にあたってしまったりします(笑)。
それよりも今日も天気が良くて気持ちいいとか、このご飯美味しいとか、身の回りの小さな幸せに目を向けたいんです。そして、それを言葉にすることで、「今日もこんなに幸せなことがたくさん」って自分に言い聞かせているところもあります。そして、「幸せだー」って言っていると、この価値観に共感してくれる人たちが集まって、ますます私の周りは幸せな人たちに包まれていく気がします。自分の「好き」や「幸せ」を発信し続けることで、自分の中でアイデンティティーを確立しようとしているのかもしれないですね。
更なるチャレンジへ
12月に東京でU・Iターンに関するイベントのパネルディスカッションに登壇したのですが、今の会社の代表も一緒だったんです。代表は山形の耕作放棄地を減らすため、葡萄作りに適した土地を使ってワイナリーを立ち上げる新規就農者を募る活動をしているのですが、話を聞きながら、「私も山形の自然を感じながら、こんな生活を送りたい!」と思いました。代表は県外出身なのですが、本当に山形や南陽、そして農業のことを考えて行動している。なんだかすごくぶっ飛んだ人みたいだけれど、この人の元で働きたいと直感で思いました。(笑)
どの業界で働くか、ということよりも先に、代表の考え方に惚れ込んで、この人と一緒に働きたいと思ったんです。このまま今の業界で経験を積むのもいいけれど、プレイヤーとして挑戦するには今のタイミングが一番かと思いました。
――まったく違う業界での新しいチャレンジをされる中で、三ケ山さんがやりたいことは?
広報やPR、販売のほか、内部の仕組みづくりなども行いますが、それに加えて貿易や海外の仕事にもチャレンジします。昔から興味のあった英語を使った仕事とか、やりたいと思っていたけれど踏み出せなかったことが全部繋がったように感じています。
ただワインを売るだけでなく、伝えきれていない山形の魅力を私なりの解像度で世界に向けて発信することで山形を訪れる人をもっと増やしていくことができると思っています。うちの会社のワインは、日本よりも世界に照準を合わせていて、一目で「MADE IN JAPAN」とわかるよう、鶴とか、鬼とか、武将とか日本らしいものをワインのラベルにしているんです。
あと私自身、意外だったのは代表に惹かれて働きたいと思っていたのですが、こんなにもナチュラルワインという商品そのものに惚れると思っていませんでした。ナチュラルワインの話をしていると幸せな気持ちになるんです。完全に変態の域に達しているかもしれません(笑)。
ワインと言えば、着飾ってオシャレなレストランで楽しむ、みたいなイメージを持っていたけれど、ナチュラルワイン(自然派ワイン)を作っている人達は、普段着で、そして日常の中、自然の中でワインを楽しんでいるんですよ。その世界観が好きで、場所とか、形式とかとらわれなくていいんだなぁと思いました。
今までは強くあろうと思っていましたが、ナチュラルワインを楽しむように、もっともっと自然体でいたいし、好きなことを好きって言えるようになりたい。人生観も変わりつつありますね。「こうしないといけない」と思っていたことを振り払って、もっと自然と戯れたい。「自然」が今年のテーマですね。
最後に
女性で、母で、妻で、ワーママでもあるのですが、あまり意識していなくって、「三ケ山香織」って思っています。名刺に三ケ山香織ですって書きたいくらい(笑)。
属性を作ってしまうと「~すべき」とか「~しなければならない」という制限に、とらわれてしまうと感じています。女性は家庭を守るものとか、ご飯は手作りが大事だとか、母親は3歳までは子どもと一緒にいなければいけないとか・・・。
――歳を重ねて行った時にどんな「三ケ山香織」になっていたいですか?
前は30年後の姿とかも頻繁に考えていました。5年くらい前までは50代で大学の先生になりたかったんです。今もそれは魅力的だとは思いますが、それが絶対だとは思っていません。
まずは目の前にあることに集中する。仕事でしっかりと実績を出して、自分にできることを増やしていき、たくさんの仲間を見つけていく。「三ヶ山香織と仕事したい」「あなたと仕事をして良かった」「ありがとう」と言ってもらえるのが至福なので、まずはそこに焦点を置いています。それを続けていると次のステージが必ず開けてくるので、今はそれを楽しみたいなと思っています。だから、自分自身、これからどんな風に年を重ねていけるかがすっごく楽しみです。
プロフィール
三ヶ山香織 Kaori Mikayama
1984年秋田生まれ、山形育ち。法政大学卒業後、経営コンサルティング会社、旅行会社、まちづくりコンサルティング会社を経て、現在の㈱グレープリパブリックに。山形のライフスタイル、そして山形のナチュラルワインを世界に広めるために日々奮闘中。2児の母。
聞き手
延世大学一般大学院 修士課程修了
専門学校教員として多国籍に亘る講師のマネジメントや
学生の育成に携わる中で、ティーチングとコーチング手法の掛け合わせに関心を持つ。
コーチングを通した人材開発に携わりたいとの想いから、コーチを志す。2018年8月よりフランス在住。国際コーチ連盟アソシエイト認定コーチ、(一財)生涯学習開発財団マスター認定コーチ