ダイバーシティ推進 課題と対策 –オランダの事例から−

多様性は諸刃の剣

オランダ政府の政策に関する諮問機関であるThe Netherlands Scientific Council for Government Policy(WRP)が2018年7月に発表した「The new diversity」と題したレポート では、多様な背景を持つ移民が増え、日常生活の中で生活主観や価値観が違う人々が共に暮らすオランダ社会で生まれている課題とその対策が紹介されています。

中でも興味深いのが民族の多様性と経済成長の関係についてです。オランダでは1997年から2015年の間の各地域の民族多様性の変化と、同じ地域の一人当たり経済成長との間に相関があったかについて全国を40の地域に細分し独自の調査を行いました。民族の多様性と経済成長については他にも様々な調査が行われていますが、オランダで実施されたものを含めその結果については2つの相反する傾向が見られています。

一方の結果は民族の多様性が経済成長につながるというものです。民族の多様性は自分とは違う様々な知識やアイディア・視点を知ることにつながり、創造性と革新性を高める可能性があることが示されています。もう一方では、民族の違う人々はお互いを理解することが難しく、それぞれの民族の人々が異なる言語を使い、異なる考え方を持つことを続け、結果としてコラボレーションは困難になり創造性や革新性を高めることにはつながらない可能性があるという結果もでています。多様性があることは狭い範囲では創造性を生む可能性が高くなるものの、同時にその多様性を受け入れるためにコストが発生する場合もあります。適切な対策なしには、必ずしもプラスの結果を生むとは限らないと示されています。

民族の多様性というのは、ジェンダーや価値観など、様々な切り口を持つダイバーシティの一面にすぎません。企業においてもダイバーシティを推進すれば必ずしも創造性や革新性が上がるわけではなく、適切な対応が必要になると考えられます。では、ダイバーシティを推進し、より良い企業や社会の状態をつくっていくにはどうしたらよいのでしょうか。

ダイバーシティ推進を成功させるための6つのポイント

ダイバーシティの拡大による課題に対して、オランダ政府は6つの政策方針を掲げています。

1.様々な違ったコミュニティの理解を深めること
地方自治体はその地域に住む様々な移住コミュニティをよりよく理解しなければなりません。 統計的なデータを取得し分析することは、多様性に関連して発生する問題に対して効果的な戦略を立てるための材料となります。

2.制度や施設の整備をすること
公的機関と民間企業は、常に変化する文化の多様性のために適切な整備を行わなければなりません。同じ方法で全てのコミュニティを扱うことは有効ではありません。特に最初にその地域に入る移住者はその地域特有の戦略が必要になります。

3.公正に扱うこと
すべての組織は、誰をも差別なく公正かつ公平に扱わなければなりません。居住期間や年齢を元に不当な扱いをすることは、様々な背景を持つ人々が不安を感じ、組織に対する信頼を損なうことにつながります。

4.スムーズに社会に参加するためのツールを作ること
滞在期間や仕事の属性によらず、できるだけ早くスムーズに社会に加わるためのツールを与えなければなりません。どのような人がその地域に住むか、移住者の個々の状況を最もよく知っているのは各地域自治体であるため、各地域自治体がこれらの導入サービスをつくることが重要です。

5.一人一人のことをよく知ること
近隣住民の接触を促進することはとても重要なポイントです。住民同士を良い友人にすることを促す必要はありませんが、お互いに親しみやすくすることに注意を向ける必要があります。人々がお互いを信頼することができると感じることは、その場に対して安心を感じることにつながります。

6.社会的・経済的地位を改善すること
最後に、社会的・経済的不利益の撲滅にも重点を置くことが必要です。多様性の高い地域では、人々が経済的に貧しく、オランダ語が堪能ではないため社会的つながりも弱い傾向にあります。社会的・経済的地位を改善することにより、十分な教育を受けることができ、社会的つながりも強くなると考えられます。

これらは、オランダにおける民族多様性の拡大によって生じる課題に対する対策ですが、「地方自治体」や「社会・地域」を「企業」、「コミュニティ」を「属性」、「(多様性を持った)移民・移住者・住民」を「(多様性を持った)就労者」、「オランダ語」を「専門知識や共通言語」と読み換えることで、企業におけるダイバーシティ推進のヒントも得られるのではないでしょうか。