コーチングによる多職種連携の促進と患者経験(Patient eXperience)に基づく医療の質評価


2018年9月8日~9日、第24回日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会が開催されました。2日目に東北大学大学院医工学研究科の出江紳一氏が座長を務める「コーチングによる多職種連携の促進と患者経験(Patient eXperience)に基づく医療の質評価」というシンポジウムが企画されました。今回は、シンポジウムのダイジェストをお届けいたします。

 

出江紳一氏は、2017年にグラクソ・スミスクライン社の助成を受けて実施した教育事業「チーム医療実践リーダー育成研修」の概要及びコーチングの有用性について紹介を行いました。教育事業の目的として、対職員・対患者コミュニケーションに必要なコーチング技法とともに医療の質評価の手法であるPatient eXperience(PX)を学ぶことにより、質の高い医療アウトカムや患者のQOL向上が期待できることが話されました。


足利赤十字病院リハビリテーション科の尾﨑研一郎氏は、約1年間にわたる研修会で学んだコーチングフローの解説、現場での実践とコーチング活用事例の紹介を行いました。
はじめにコーチングフローの解説を行いながら、会場の参加者に対して「今どのような目標を持っていますか」(目標の明確化)、「目標に対して今はどのような状況ですか」(現状の確認)といった、コーチングフローに沿った質問を投げかけ、リアルタイムでコーチングを行いました。続いて、実際に医療者にコーチングを行った3つの事例について紹介。NSTチーム管理栄養士、コメディカル係長、コメディカル若手へのコーチングを通じて、コーチング初心者でも相手の成長を促せる可能性を感じたことや、多職種にコーチングを用いることで行動変容を促すことができたというコーチングの成功体験を語りました。


広島市立リハビリテーション病院リハビリテーション科の嘉村雄飛氏は、「多職種連携を実践する人材育成モデル構築事業」への参加を通じて得たものについて発表を行いました。
多職種連携やチーム医療の実践の必要性について認識はしていたものの、臨床場面や組織運営においてこれらを実践するための知識やスキルが乏しいと自覚していたという嘉村氏。事業への参加を通じて気づいたのは多職種連携における「言語化」の重要性でした。医師という立場上、上意下達のコミュニケーションスタイルが身についていた中で、研修医や患者との会話において自分が一方的に教えるのではなく、相手に問いかけるコーチングスキルを活用したところ、研修医の考えが少しずつまとまっていく・患者が自分で決めた目標に向かってできることを見つけていくことを経験。コーチングスキルは日常の診療場面で容易に活用できるということや様々な臨床場面で他職種の意欲向上やスキルアップに繋げることができるということを実感したことや、言語化の重要性を再認識することが、多職種連携の鍵となるという考えを話しました。

東海大学医学部血液・腫瘍内科学教授の安藤潔氏は「医療の質とは何か、それをどう改善していくか」というテーマで発表を行いました。
団塊の世代による2025年問題の先の2035年の医療のあり方を考えたときに、医療の質が大きなテーマとなることが予想されます。医療の質とは、技術的要素(適切性、信頼性)、人間的要素(コミュニケーション、信頼と安心)、環境的要素(安全性、快適性)、経済的要素(効率性、費用対効果)で構成され、これらは構造、過程、結果で評価することができるということや、医療の質の評価制度が進んでいるアメリカやイギリスでの評価方法の実例を紹介。患者満足度調査は、あくまで患者の主観や印象という結果を評価しており、より良い医療サービスを提供するために行われているにも関わらず、改善方法が不明瞭で医療の質の改善に結びつきづらいという問題点を挙げ、それに対して経験とプロセス(過程)を聞くことができるPX(Patient eXperience)調査を紹介。PXは現状で最も有用な患者中心の医療の質の指標であることに加えて、その向上施策手法としてコーチングがあげられ、コーチングにより多職種連携が促進され、結果として医療の質が上がるという仮説があること、日本でもPX研究会がイギリスのNHS(National Health Service)で使用されている入院患者の患者調査票(PXサーベイ)を参考に、日本の実情にあった日本版PXサーベイを開発したことで、PX調査が可能になってきていることなどを紹介しました。