病院経営者にとって必要なことは何か 山根哲郎先生

自分を受け入れることができてこそ、人を受け入れることができる

−「自分で人格を磨いていこう」という気概のありそうな人はどうやって見つけるのでしょうか。
それはその人とお付き合いをしていく中で見つけていますね。話していると、この人はこういうことを考えているのかと、片鱗がチラチラと見えることがあります。

−意見が違う者同士でも、話をしている中で納得できたら自分の意見を変えられる人は、他の人の意見に耳を傾けることができるんだなと思います。
そうそう。ずっと自分の意見だけ通そうとして仕事を続けられたら困りますよね。その人がどういう人であるかを理解するために、看護師さんや事務の人、運転手さん、植木屋さんがポロっと話すことにも耳を傾けています。それでその人の人となりが分かります。この人にはこんな側面もあったのかと意外に思うこともある。人から聞いた情報を盲目的に全て信じるわけではないけれども、この人はこういうことを言われているんだな、あの人からはこんな風に思われているんだなという事実はわかります。この人は周りのことを気にして尾ひれをいっぱいつけてしゃべっているなとか、この人はそんなに変なことは言わないなとか、ちゃんと見ていればなんとなく分かるようになってきます。

−山根先生がスタッフの方と接するときに意識していることはありますか?
「あの部署がこんなことで揉めているみたいですけど、知っていますか?」と言われることがあります。そのときは聞き流したようにして、なんとなく偵察するというか情報収集することがあります。でも情報収集したこと全てが正しいとは限りません。色々な人から聞かないといけないし、それぞれが自分の見方でしゃべっていることもあるので、聞いたことを100%信用するわけにはいかない。でも火のないところに煙は立たないというのと同じで、そういう話が出ているということは何もないわけではない、ということは分かります。本人ではなく周りのほうに問題があったりすることもあるしね。僕はそういうことがすごく気になるから、一つずつ解決しておきたいと思っています。几帳面そうにも見えると言われるんですが、それは気が小さいだけ。気が小さいから、小さなことも解決しておきたいし、計画を細かく立てることもします。器が小さいという性分も自分だと分かっているから、受け入れざるを得ない。そうやって自分を受け入れることができなかったらきっと、人のことも許せないだろうなと思います。

欠点がわかれば長所に変えることもできる

−自己受容(自分を認めること)ができることはリーダーにとって重要ですね。どうしたら自己受容ができるようになるのでしょうか。
それは難しい問題ですね。どうやったらできるんだろう。一つは人から言われた自分の欠点をよく聞いておくことでしょう。そのためには、自分の欠点を人に言ってもらえる自分でいないといけない。欠点を言わせないような雰囲気を出す人や言ってもらえるチャンスがない人もいるけれど、そういう人は自己受容が非常にしにくいだろうと思います。

−フィードバックを受けるということが重要なのですね。
良いところのフィードバックも必要だけど、悪いところもフィードバックを受けないとね。人間だから、欠点もいっぱいありますもんね。自分で自分の欠点が分かるということは、それを長所に変えることもできるということでもあります。自分の性格をあげれば、「気が小さい」という短所も裏を返せば「几帳面だ」という長所になります。自分の弱みだと分かっていると、それをどう扱うか自分で考えることができますよね。

−こういったことを山根先生みたいに、自分で反芻して咀嚼する方もいるし、コーチがそういう役割をするときもあるなと思いました。
そうでしょうね。自分を客観的に見る必要があると分かっていても、どうしたらそれができるようになるか分からない人もたくさんいると思う。僕がコーチングに関心を持ったのは、良いところも悪いところも含めて自分を受け入れ、人格を磨いていくにはどうしたらいいかということを絶えず自分なりに考えてきたからというところはありますね。

山根哲郎 Tetsuro Yamane

パナソニック健康保険組合 松下記念病院 院長 2004年より現職
京都府立医科大学 臨床教授(消化器外科学教室)2006年より現職
パナソニック健康保険組合 松下看護専門学校 学校長 2013年より現職(いずれもインタビュー当時)
1949年生まれ。京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科外科系専攻入学(1982年3月修了)