物語を聴き、ゴールやビジョンを一緒に考える
東北大学大学院医工学研究科 出江紳一教授

コーチングに関してこれからどんなことに取り組んでいかれたいですか。

コーチングはやればやるほど面白いです。今まで「気付き」というのは脳の中にあって分かりにくいので研究のテーマになりにくかったと思うんです。それでも段々計測の手法が発達してきましたから、もう少しするとコミュニケーションを交わしている人同士の脳の様子を一緒に観察できるようになって、コーチがこういう風に話したときにクライアントに気づきが起こったということが分かるようになってくるそうです。

星新一の小説に「四次元タマネギ」という話があるのですが、その話にはむいてもむいても減らない玉ねぎが出てきます。人は一生懸命仕組みを知ろうとするんです。それを食べていれば食料問題が解決するのに、知ろう知ろうとして壊してしまうという話です。コーチングもきっと、仕組みを知ろうというモチベーションと、どう使うかという視点の両立が大事ですよね。

ここ数年で始めたのは学生に教えることです。4年前から大学院の授業として15コマをコースにして教え始めたのですが、学生によってはすごくヒットします。去年から大学1年生に教えているのですが、自分でコーヒーショップを始める人などが出てきて。  が生まれています。こういった機会がなくてもいずれやるような人たちが集まっているのですが、すごく速く動き始めていて。教育の領域で早めにコーチングが入ると日本のためになるだろうなという感じがしています。色々な人が同じことを考えているようで、去年は科学技術振興機構(JST)のプロジェクトで高校の理科の先生にコーチングについて講演をしました。高校の理科の先生は生徒の研究を指導しないといけない。授業で科目を教えるのと違って、研究指導は部分的にコーチングをしないといけないんです。つまりコーチングとティーチングのバランスが大事になってきます。こういった取り組みをどこまでできるのかもうちょっと見てみたいです。

そしてもう一回、ちゃんといいコーチになってみたいなと思います。コーチングのスキルは型としていいと思うのですが、実際にプロのコーチと話をしたり、プロのコーチのセッションを聞いたりすると何かが違う感じがしますよね。勉強で身につけるスキルと、コーチの能力というのは違うところにある気がします。これまではコーチングスキルとか型を身に着けることで自分がコーチ的なコミュニケーションを取ることができれば周りにとっていいかもしれないなというくらいに考えていたのですが、やはり気づきを与える能力はすごいと思うんです。それがあればどんな状態になったとしても生きていけるだろうなと思うんです。定年までの期間は教育や研究ですが、それから先というのを考えたときに、コーチでいたほうがいいだろうなと思います。目指せ、コーチですね。

出江 紳一 Shinichi Izumi

横浜市出身。慶應義塾大学医学部卒業。医学博士、リハビリテーション科専門医。国立療養所村山病院、慶應義塾大学月が瀬リハビリテーションセンター助手、静岡市立病院医長、ニュージャージー医科歯科大学リサーチフェロー、慶應義塾大学病院リハビリテーション科医長、東海大学医学部リハビリテーション学講師・助教授などを経て、2002年東北大学肢体不自由リハビリテーション科教授・科長に就任。2008年から同大学院医工学研究科教授。2014〜2016年、東北大学大学院医工学研究科長。

著書

出江紳一(編著):リハスタッフのためのコーチング活用ガイド .医歯薬出版株式会社、2009年

出江紳一:看護管理者のためのコーチング実践ガイド.医歯薬出版株式会社、2013年

出江紳一:回復する身体と脳 ─脳卒中の麻痺を治療する脳のリハビリテーション.中央法規.2009

自分もコーチをつけてみる