織田信長に学ぶセルフ・アウェアネス(自己認識力)

今年8月、ハーバード・ビジネスレビューシリーズの書籍『セルフ・アウェアネス』日本語版が発売されました。セルフ・アウェアネスは、日本語で「自己認識力」などと訳されます。みなさんは、「自己認識力」という言葉をご存じでしょうか。

 

自己認識力とは、自分自身を理解している力のこと。
自己認識力が高い人は、自分の思考・言動の特徴や他者から見た自分の特徴を理解しているため、自身の思考や言動をコントロールして効果的なリーダーシップを発揮することができます。
「自己認識力」は、オンライン・コーチング「myPecon」におけるコーチングで扱う4カテゴリーのうちの一つでもあります。今回は、自己認識力を掘り下げて見たいと思います。

2種類の自己認識力

組織心理学者のターシャ・ユーリックは、自己認識には2種類あると述べています。
1つ目は、「internal self-awareness」。自分の強み/弱み、価値観を自分自身で正確に捉える力を指します。2つ目は、「external self-awareness」。自分の強み/弱み、価値観を他者がどう捉えているかを把握する力を指します。ターシャ氏は、自己認識の高い人は2種類のバランスを強く意識できていると指摘。また、2種類の自己認識には相互関係がないことが研究結果でわかっています。
すなわち、自己認識力を高めるにはそれぞれ別の努力が必要になるのです。

 

皆さんは「自己認識力」にどの程度自信がありますか?

 

2014年に約5,000名を対象として行われた海外研究では、ほとんどの人が自分は自己認識が高いと思っているものの、実際に自己認識が高い対象者は10-15%でした。(自己認識が高い対象者:研究チームが定義する条件を満たした者)

では、どうすれば自己認識力が上がるのでしょうか。前述の『セルフ・アウェアネス』では、internal self-awarenessを上げるには内省が、eternal self-awarenessを上げるにはフィードバックが有効とされています。両方を高めるにはコーチングセッションでコーチに内省を促してもらったり、プロの視点からフィードバックをもらったりすることが有効ともされています。

 

織田信長は自己認識力に長けていた!?

 

 

internal とexternal self-awareness、まだ少しわかりにくいでしょうか。
ここで、ある人物を例にとって考えて見たいと思います。

 

戦国時代、「天下布武」を掲げ小国・尾張から一気に勢力を拡大させ全国統一を志ざした織田信長を知らない方はいないでしょう。「たわけ(大バカ者)」と評された奇想天外な言動やリーダーとしての冷酷さをクローズアップされることが多いですが、彼は自己認識力、特にexternal self-awarenessに長けていたと思われます。

 

【episode】舅・斎藤道三に初対面する際の登場の仕方

織田信長の舅は「美濃の蝮」と評された斎藤道三で、名もない境遇から僧侶、油商人を経て武士となり、己の主を滅ぼして戦国大名に成り上がった人物として知られます。

 

斎藤道三の娘、濃姫と結婚した頃の信長は非常識な言動が目立ち、誰一人として信長が後に天下取りの人物になると思っていませんでした。
ある日、舅・斎藤道三は信長に面会を申し入れてきます。
道三にとって信長と面会する目的は、暗殺するためだったとも、人物評通りに大バカ者なのか真偽を見極めるためだったとも言われています。

 

さて面会当日、道三の方は、信長は実直でない男だから驚かせて笑ってやろうと計画し、古老の家来800人ほどに折り目正しい肩衣や袴など上品な身支度をさせて信長の通り道にスタンバイ。当の道三は町外れの小屋に隠れて信長の行列を覗き見していたと言われます。

 

通りかかった時の信長のいでたちは、当時の正装とかけ離れており、腰の周りに火打袋や瓢箪を7-8個ぶら下げ、虎皮と豹皮を4色に染めわけた半袴と言った奇抜な服装でした。一方で信長は道三の「隙あらば暗殺」という腹を見抜いていたのでしょう、おびただしい数の鉄砲隊や槍隊を行列させて攻撃の余地を与えず、一瞬の隙も見せませんでした。

 

無事に道三との面会会場である寺についた信長は、馬から降りると周囲を屏風で囲わせ、その中で奇妙な服装を脱いで正装に着替え、面会に向かったのです。
これを見た道三家中の者は、「さては、近頃の阿呆ぶりはわざと装っていたのだ」と肝をつぶしたとされています。

 

その後の道三との面会も順調に進み、信長は道三の帰路を2kmほどまで見送りました。その際、道三勢の槍は短く、信長勢の槍は長かった。それを見て道三は面白くなさそうな顔で無言で歩いたと言われます。信長と別れた後、道三は「この道三の息子どもが、必ずあの阿呆(信長)の門前に馬をつなぐことになろう」と家来に話しました。
出典:『信長公記』

 

誰もが恐れ警戒した斎藤道三にこのような言葉を言わしめた信長。信長には、他者から見た自分の姿を理解した上で、さらにそれを逆手にとって物事を有利に進めたエピソードが豊富にあります。

 

戦国の世を生き抜くためにも、自己認識力は重要な能力だったのではないでしょうか。現在もビジネスの戦国時代。内省する、周囲にフィードバックをもらうなど、自己認識に意識を傾けてみてはいかがでしょうか。

 

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