医療界にこそ健康経営を
名古屋第二赤十字病院 名誉院長 石川清先生

健康経営は意識改革

-喫煙や肥満は個人問題で、健康経営を推進する病院や企業が口出しをすべきでないという意見もありそうです。

それは原点に戻って、「自分が不健康で患者さんの健康を云々できますか」ということだと思います。健康経営を進めていくと、きっと抵抗勢力もあるでしょうね。しかし、禁煙でも、喫煙者の何人かが禁煙に取り組みだして、一人抜け、二人抜けしていくとおそらく変わっていくでしょうね。ティーペック(T-PEC株式会社)という会社は、国がホワイト500*を提唱した当初から全社的に健康経営に力を入れていて、3年くらいで喫煙者をゼロにしたと聞きました。同社でも最初は「絶対に禁煙しない」という人がいたそうです。しかし最終的には全員が禁煙しました。会社が「喫煙をやめましょう」と言ったのではなく、周囲が少しずつ禁煙していったことで、喫煙していることが気まずくなってゼロになったようです。
喫煙も肥満も、自分の健康のために良くないということに、自分自身で気づかなければ絶対に取り組みませんから、自分自身で気づくことが大切かと思います。

-健康経営の本質は、職員の意識改革なのですね。

そうだと思います。だからこそ、病院のトップがはっきりと明言しないといけません。行動変容をして、できるんだという自信がついて、一人ひとりが行動を変えていくことで経営が良くなってくる、それで健康経営という名前が出てきました。健康経営に取り組む企業は若い人たちに選ばれるでしょうし、優秀な人材も集まってくるでしょう。企業に限らずどのような組織であれ、トップとして健康経営を考えるのは当然の話だと思います。

健康経営という言葉が医療界でも一般的になっていくと、健康経営に取り組む病院が増えていくでしょう。最近、いくつかの医療法人が健康経営に取り組んでいますが、まだまだ十分浸透していないと思います。特に大病院では少ない印象です。一般企業と同じで多くの職員のいる大病院で健康管理をきちんと取り組んでいくのは難しいと思います。それでも病院は患者さんの健康を担っているわけですから、職員の健康にも取り組まないといけないと思います。

*経済産業省が2016年に創設した認定制度「健康経営優良法人」のうち、規模の大きい企業や医療機関を対象とした大規模法人部門の認定法人を示す愛称

石川 清(Kiyoshi ISHIKAWA)

名古屋第二赤十字病院 名誉院長

愛知県生まれ。名古屋大学医学部卒業。名古屋市立大学病院麻酔科助手、トロント大学医学部麻酔科留学、名古屋市立大学病院集中治療部助教授、名古屋第二赤十字病院麻酔科・集中治療部長、副院長・救命救急センター長、名古屋市立大学医学部臨床教授、名古屋第二赤十字病院院長を経て、2018年より愛知医療学院短期大学教授、現職。麻酔、集中治療、救急医療、災害医療を専門とする。日本コーチ協会認定メディカルコーチ。