個人の幸せと企業や国の成長は両立するのか【後編】
慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 前野隆司教授


これからは異なる個性の「異能集団」が求められる

-ポジティブ心理学は今後の日本社会や世界にどのように活用することができるのでしょうか。

 国や組織の成長フェーズによっては、軍隊的・中央集権的に統制してやっていくほうがいい時もあるかもしれないけれど、今の日本は違います。それに気付けないとまずいでしょうね。アメリカや中国に比べて日本は閉塞感があると言う人もいますが、たとえば、超高齢社会をチャンスと捉えられたら、福祉の分野で新たな市場が生まれたりするでしょう。これまでの硬直化したやり方を変える発想の転換が必要です。
 このような状況の中では、ネガティブな部分を見るよりポジティブな部分を見て、それを伸ばしたほうがいい。例えば苦手科目を一生懸命勉強して平均点くらいに伸ばしても、そんなのすぐにAIやロボットに負けてしまう。それよりも、自分で考えながら得意なものを徹底的に伸ばし、AIやロボットを凌ぐことをやるべきです。創造性、感性、人間力です。これらから自然にイノベーションや富も生まれて来るでしょう。

 ポジティブ心理学は、そもそも病的な心の状態のみならず健康でポジティブな心のありかたを学問にしようという心理学の新しいムーブメントですが、私はさらに大きな可能性を感じています。つまり、今述べたように、社会課題を解決してより良い世界を作っていくイノベーションのために各人の創造性、感性、人間力をポジティブに捉え直そうということです。

 これからはますますそういう社会になっていきます。苦手なものを平均点にするのではなく、自分の強みをそれぞれが生かしていく。自分と異なる才能を認めあい、信頼しあい、尊敬しあい、強みを活かしあっていく異能集団が、変化の激しい時代には必要不可欠です。
 現代は正解の見えない時代だという人がいますが、とんでもない。みんなが目指すべき正解は、「みんなの幸せ」。自明です。目指すべきは、企業やコミュニティーや世界全体の幸せ。もちろん、それに対して自分がどう貢献し、どう幸せをつくっていくかは、各自がイノベーティブに考える必要があります。これからは、「スキル(doing)」を高める時代ではなく、「ありよう(being)」を磨く時代です。もうすでにそういう時代が来ています。それに気づいている人々は生き生きしているし、気づいていない人は閉塞感にあえいでいる。

 スキルや資格を一所懸命高めても、そういったものはすぐにAIやロボットに抜かされてしまう。これからは個性の時代。明らかです。このことを75億人が理解したら、世界は変わるでしょうね。そんな世界をみんなで一緒に作っていきたいと、心から願っています。

前野 隆司(Takashi Maeno)

慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 研究科委員長・教授

http://takashimaeno.com/

東京工業大学卒、同大学院修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校Visiting Industrial Fellow、ハーバード大学Visiting Professor、慶應義塾大学理工学部専任講師、同助教授、同教授を経て現職。博士(工学)学位取得(東京工業大学)。ヒューマンインタフェースのデザインから、ロボットのデザイン、教育のデザイン、地域社会のデザイン、ビジネスのデザイン、価値のデザイン、幸福な人生のデザイン、平和な世界のデザインまで、様々なシステムデザイン・マネジメント研究を行なっている。「幸せのメカニズム-実践・幸福学入門」、「実践 ポジティブ心理学 幸せのサイエンス」など著書多数。