個人の幸せと企業や国の成長は両立するのか【後編】
慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 前野隆司教授

-一個人の「幸せ」を考えた時、向いていないかもしれないけれども好きな仕事に就く場合と、好きではないかもしれないけれども向いている仕事に就く場合と、どちらが幸せになりやすいのでしょうか。

 両立するのがいいと思います。どちらも満たすイノベーティブな解を見つけられるといいですね。

 得意な仕事は儲かるけれど好きではない、好きな仕事は好きだけど儲からない。二者択一ではどちらも満足できませんよね。では、折衷案はどうでしょう。得意で儲かるものと好きで儲からないものの間の折衷案というのは、中途半端に得意で中途半端に儲かるようなもの。これもあまり魅力的ではないですよね。倫理学には「創造的第3の解決法」という倫理問題解決法があります。二者の折衷案ではなく、創造的に、得意なものも好きなものも活かす新しいやり方を見つけるのです。そうすれば、ふたつの答えのいいところを両立することが可能になります。新しい発想ができないと、答えは、二つの答えを結ぶ線上にしかないと思い込みがちですが、実は答えは無限にある。新しい発想はブレインストーミングやイノベーションの手法をきちんと学びトレーニングをすれば誰でもできるようになります。
 「不幸な人は部分を見て幸せな人は全体が見られる」という傾向もあります。不幸な人は部分しか見ないで「私にはもう無理だと」考えがちです。つまり、二者択一の二つの答えを結ぶ線しか見えない。幸せな人は線の外側の無限の空間をイメージできます。「こうやってもいいし、ああやってもいい、あの人と協力してもいいし、あのエキスパートを呼んで来て教えてもらってもいい」というように、多様に、イノベーティブに考える。だから一見両立しないことにぶつかっても危機ではない。「どうだってなるんじゃない?」みたいな感じになる。すると、楽だし楽しいですよね。オープンで柔軟性があると幸せでいられます。