2.ビジネスにおけるコーチングの目的
スポーツ分野ではコーチが技術面の指導や精神面のサポートを行いますが、ビジネスにおいてコーチングは、クライアント(コーチを受ける人)とコーチによる双方向のコミュニケーションを通じて、クライアントが自発的に目標を達成するための支援を行うことを目的とします。クライアントが経営者の場合は、経営改善や新しいビジネスの創出・経営者としてのリーダーシップの発揮等、管理職の場合は人材育成やチームマネジメント、営業成績の向上等と、クライアントの立場によって扱うテーマは変わります。
コーチはクライアントの話に耳を傾け、効果的な質問やフィードバックを投げかけます。それによってクライアントの気づきや行動を意識的に引き出していきます。コーチとクライアントの間には人事評価などのしがらみ、価値観の押し付け合いがありません。クライアントの内発的な動機によりクライアント自身が意思決定を行い、コーチは、クライアントが目標を達成するための行動を起こすサポートを行います。
3.コーチングに影響を与えている学問等
コーチングは、「ネイティブ・コーチ」と呼ばれる人の力を引き出すことに長けている人や、技術伝承に長けた人が行なっていることを観察し、うまくいっている要因を整理・体系化したものです。心理学や言語学の研究などが土台となっていますが、中でも大きく影響を与えているのが、アブラハム・マズローの提唱した人間性心理学です。人間性心理学では、人間を「精神」や「身体」、「感情」といった部分に分けず、全体的な存在として扱うとともに個人の独自性を重要視します。この考え方は、一人ひとりの成長可能性を伸ばすというコーチングのスタンスの土台となっています。
2013年に出版された「嫌われる勇気」で注目を浴びたアドラー心理学も、人間性心理学の学者の中に加えられるという見方もあります。アドラー心理学では「人間は過去の原因によって突き動かされるのではなく、いまの目的に沿って生きている」という前提に立っています。コーチングにおける「ビジョンや目標などの未来の姿を明確にし、それらの達成に向けた行動を促進する」手法はアドラー心理学の考え方と共通しています。
また、1970年代にカリフォルニア大学で研究されたNLP(Neuron-Linguistic Programing:神経言語プログラミング)のスキルの多くはコーチングにも活用されています。NLPは心理学と言語学の観点から体系化された学問領域をベースにしており、セラピーの現場で天才と称された三人のセラピスト達の分析から生まれた手法です。NLPでは、クライアントの課題解決に向けた効果的な関わり方が体系化されています。その他、人間の「存在」そのものに重きをおく東洋哲学や「人間は自分の経験から自分の世界を積極的に作り上げる」という考えを展開する構成主義もコーチングに影響を与えています。