命といきる医療従事者~わたしの哲学~Vol.01 コミュニケーションからはじまるキセキを信じて(平尾 由美さん)

コミュニケーションからはじまるキセキを信じて

 

―平尾さん本日はお時間を頂戴しありがとうございます。よろしくお願いします。早速ですが、医療従事者を目指したきっかけや理由を教えてください

子どもの頃に将来の夢を考えた時、何故か病院で働きたいなと思っていたんです。今になって思い返してみれば「人が好きだから」という理由が一番かもしれません。
人にとってコミュニケーションはとても大事だと思っています。わたしにとって一番興味のあるところでもありますし、苦手としているところでもあって。コミュニケーションって相手があってのことなので、人によって一つの言葉でも捉え方も違いますし、発信する意味合いも違ったりしますよね。自分の中で気持ちを伝える、相手の気持ちを理解するということがわたしの中でのテーマです。職業を選んだ時は、そこまで考えていなかったんですけれど…。最終的には、わたし自身が人が好きで、しゃべることも好きなので言語聴覚士を選んだのかなと思います。
ただ…大学を卒業して言語聴覚士になった時に患者さんの、話すことができない食べることができないという状況になかなか理解が追い付かず、なんて苦しい職業なんだ…辞めてしまおう…と退職してしまったんです。あの頃はまだ若くて人生の経験も少なかったですし、伝わらないことにもどかしさを感じていたのかもしれません。自分自身が様々な経験をすれば少し世の中のことがわかるかもしれないと思っていた時期もあって、市役所や企業で働いたりしました。遺跡の発掘調査もしたんです(笑)。病院で働いていたら絶対に出合 えない体験をしていましたね。

 

―どのタイミングで言語聴覚士に復帰されたのですか

たまたま市の教育委員会の方にお声がけいただいて復帰しました。わたしの住んでいるところでは言語聴覚士がとても少ないので、助けて欲しいと言われて戻ってみたんです。必要とされることってありがたいですし。子どもの療育は苦手だったので最初は辛かったですね…でも、やっているうちに言葉はなくても子ども達と通じ合える感覚が出てきて。コミュニケーションってこういうことかもしれない、と思えたんです。それがきっかけになり子どもや高齢者の問題に取り組むようになりました。

 

誰かの人生を共にあゆむ職業

―平尾さんにとっては言語聴覚士というご職業は、もしかしたら辛いことが多かったですか

そうですね。今でも辛いことの方が多いかもしれません(笑)。
患者さんにとっての幸せな人生になるのか。医療従事者として何ができるのか。悩みは尽きません。病院はただの通過点でしかないので、その後の人生がどうしたら良くなるのかとよく考えます。自分が治せるわけではないし、医療従事者の中でも小さな一部かもしれないのですが…。
これまで様々なことが障壁となりましたが、わたしの中ではコーチングやPX(ペイシェント・エクスペリエンス、患者経験価値)を知ったことによって、どう関わっていくかを考えられるようになったように思います。人生にはいいことばかりが起きるわけではないですし、年齢を重ねると出来なくなってくることが絶対にあるので、どうその患者さんに幸せであってもらえるかはこれからもずっと悩み続けると思います。

 

ー言語聴覚士とは平尾さんにとって、どんなお仕事ですか

幅広いのですが、わたしは食べることと話すことの全てとお伝えしています。脳梗塞などの後遺症で失語症になった方や誤嚥性肺炎の方、難聴などの方の検査やリハビリ、お子さんたちの発音などのトレーニングなど。忍耐が必要になってきますね。できていたことが病気や衰えによって出来なくなるということはあることなんです。その中でもリハビリを通してどうやって今の生活をよりよくしてもらえるかをコーチングしながら一緒に考えてよりよい状態で生活してもらえるように工夫していくことが重要かなと。

 

―今は、言語聴覚士として働いていることに後悔などありませんか

そうですね、日々いろいろなことが起きるのでなんとも言えないのですが(笑)。今は現場を離れて求められるものが変わってきているので、これまでとは違ったモヤモヤや葛藤があります。上層部とのやり取りもきっと問題になる部分はコミュニケーションなんですよね。わたしはコミュニケーションがすべての根幹だと思います。現場が恋しくなる半面、役職が付いたことによって一人の患者さんと、というよりは組織としてどう向き合うかや地域という少し大きな規模での自分の役割を認識することで何か変えていくことができるのかもしれないなと思い始めました。正直に言えばやはり現場仕事が好きなんですけれどね(笑)。

 

壁のない社会への願い

―地域への貢献に関してどんなことを大事にされているのですか

病院と地域や病院と学校には何となく壁があるように感じていて。患者さんの実際に生活する場面での行動につなげられたらな、と。最近は市のやっている障害福祉計画作成委員会や男女共同参画委員会に参加したりしています。ほかにも小中高の学校運営委員会に推薦していただいて参加することになりました。壁のない社会が実現できればと思っています。医療従事者としてというよりは個人的な想いが強くなってきたかもしれません。

 

―今後はどんなことをされたいですか

漠然とはしているのですが。地域のインクルージョンとわたしは表現しているのですが具体的に何ができるかまず整理したいですね。そして自分の役割が何かを考えたいなと思っています。自分の夢を実現していく為にはきっと一人ではだめなんですよね。言語化することでしか気が付けないことがもると思うんです。そして、出会いによって環境も変わってくると思います。わたしは、常に変わっていける自分でいたいと思うんです。PXに出合って医療業界のいろいろな方とお話し出来たことで、様々な変化がありました。誰でも、挫折はすると思うんです。でも思いに共感してくれる人や外での仲間の存在がわたしを支えてくれています。一人では何もできないなと思っています。

 

―今、一番やりたいことはなんでしょうか

色々ありますが…まずは明日の朝上司に怒られないように働くことですかね(インタビュアー大爆笑)。これもコミュニケーションなんですよね。小さなことで人との関係が溝になったり、その場の空気が嫌なものになったりすることがあるのですが…小さなことの積み重ねで大きなことが達成できると思うんです。すべての根本はコミュニケーションですよね。

平尾由美(ひらおゆみ)

北里大学卒業後、言語聴覚士として従事。子供から高齢者まで幅広い対象者のことばによるコミュニケーションや嚥下(えんげ)に困難を抱える人に訓練、指導などを行う傍らPXやコーチングに興味をもち積極的にその手法を学ぶ。現在は、市の運営する委員会や教育委員会などにも参画。その活躍の場を広げている。

日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、(一社)日本PX研究会認定PXエキスパート(PXE)、子ども発達障害支援アドバイザー