医療コーチングを学ぶと起きる変化

成長し続ける組織をつくる~チーム医療に活用するコーチング研修~の実施が決定致しました!

そこで、今回は医療コーチングを先駆けて実践されている東海大学医学部 血液・腫瘍内科客員教授  安藤潔先生に医療コーチングとはそもそもどういったものなのか、そして何故医療の現場にコーチングが必要であるかをお伺いしました。

医療コーチングとは

―まず、安藤先生にとってコーチングとはどんなものでしょうか
まず、コーチングとは何かというと、コミュニケーションの一つの「型」と捉えていただくとわかりやすいと思います。日本の伝統芸能などでは〇〇流という「型」があって、初心者はそれをまずは身に着けていきますね。それと同じような感覚で、コーチングも人とのコミュニケーションの取り方の一つの「型」であって、まずはその基本的な型を身につけ、そこから先は自分に馴染むものにしていけば良いと捉えていただくのがいいかなと思っています。
現在コーチングは企業をはじめとして、教育、医療の分野で普及しています。

 

―医療コーチングについて詳しくお教えいただけますか
医療コーチングは二つに分けることができます。
一つ目は、患者さんやそのご家族を対象としたコーチング。
二つ目は、ここ20年くらいで普及してきたチーム医療・組織のためのコーチングです。
患者さんやその周囲の方へのコーチングはイメージしやすいかもしれません。
例えばわたしは、癌患者さんを診る機会が多かったのですが命にかかわるような状況をどう伝え理解してもらうかという場面に何度も出合ってきました。そこに必要なものはコミュニケーション力だと思います。適度な距離感を持ち、相手の話を聞きながら、問いかけ、伝えるべきことを話しその後にどう働きかけていくか。この基本的とも思えることを、命の危険が迫っている状況でどこまでできるか。コーチングの基礎を学んでから、それまで自分自身で抱えていたコミュニケーションの課題が解かれたように思います。
患者さんを対象とするコーチングは、闘病生活を支えることが目的です。患者さんの状態などを考慮してどこまで踏み込むかなどの医学的な知識や経験が必要とされますので、医療従事者が行うことが望ましいでしょう。

一方で、チーム医療のためのコーチングについてですが、そもそもチーム医療は医療事故を防ぎ、安全性を高めていくために欠かせない概念ですよね。医療が複雑化する中で医療従事者一人では患者さんの全てを対応することが出来ないので、それぞれの専門家がチームとなって対処していくために、円滑なコミュニケーションによる相互理解が必要不可欠であることからはじまりました。これは一般的なコーチングがほぼそのまま応用できます。

 

―医療の世界にコーチングが適していると考えている理由はありますか
コーチングというものは基本的に相手に何かを考えさせるというコミュニケーションの取り方なのですが、昨今よく叫ばれている「患者中心の医療」を実現するには、医療従事者が患者さんの考えや価値観を引き出し、共有していくことが重要になります。そうなるとやはりコミュニケーションが本当に大事になってくるので、患者中心の医療を行うためにはコーチングという手法が適しているとわたしは考えています。

 

―安藤先生はなぜ医療コーチングを学ばれたのでしょうか
わたしが医師になったのは約40年前になります。その頃は患者さんとのコミュニケーションの取り方を教えてくれるような授業はありませんでしたし、それを教えてくれる人もいなかった。上の先生や先輩の背中を見て、見よう見まねで自分で覚えていく方法しかなかった時代でした。国家資格をとったばかりの若造が深刻な状況にある年配の患者さんがどのようなことを考えているのかも分からなかったし、相手にどう声をかけたらいいのかもわからなかった。コミュニケーションが全く取れなかったんですよね。そこに問題意識があったのですが、日本には学べる場所も本もまだなかった。そんな時にボストンのハーバード大学に留学したのですが、なんとアメリカにはコミュニケーションのやり取りのようなことを勉強する場所も本もたくさんあったんです。アメリカは移民の国ですからね、いろいろな文化背景を持った人たちが一緒に生きていくためにコミュニケーションが何よりも大事だったからではないかと理解しました。
医師としてコミュニケーションに課題意識を持っていたこともあって、わたし自身のアンテナが立っていたこともあるかもしれません。そこから二年くらいかけて、NLP(Neuro-Linguistic Programming)の講習を受けて資格を取ったりしながら学びました。また、ちょうどその頃ユング心理学の第一人者である心理療法家の河合隼雄先生がアメリカにいらっしゃってお話ができたということも大きなきっかけの一つになりました。
それから帰国してしばらくたった1997年に、NLPと似ているコーチングというものが初めて日本に導入されることになった際に一緒に勉強したり、医療者向けのコーチングプログラムの開発に携わったりしました。

 

―その後日本ではどのような活動をされてきたのでしょうか
2002年に日本で初めての医療コーチングの本である「難病患者を支えるコーチングサポートの実際」(真興交易医書出版部)を出版しました。これまでの私たちの医療現場での実践をまとめたものです。このころがちょうど日本の医療コーチングの夜明けでしょうか。ただ、反響はそれほど大きくなかったですね。新しい治療法や診断法の方が皆さんの関心を集めることはごく自然なことだと思っていました。ただ、10年くらい前からチーム医療がだんだん注目されてきたんです。国家資格をもった専門職種が一つのチームとしてやることは、そう簡単なことではありません。医師も看護師も薬剤師も…それぞれ異なる教育を受けて資格を持つわけですから。交わる部分もあるけれど、どうしても理解することが難しい部分も出てくる。皆、信念がありますから。それをどうやって折り合いをつけて一つのチームとしてまとまっていくかという時にやはりコミュニケーションが大事で、そこでコーチングの基礎が役に立つわけです。
私たちは日本摂食嚥下リハビリテーション学会で実践しているプログラムを2019年に「医療コーチングワークブック」(中外医学社)として出版しています。

 

―医療コーチングを学ぶ人が増えるとどんな変化が生まれると考えていらっしゃいますか
まず、日本の医療が量の拡大から質の向上へと変化していることがあります。いわゆる患者中心性ですね。これから目指す医療の形はそうあるべきだと思うのですが、そこにはコミュニケーションが本当に大事になってくると思っています。コミュニケーションがよく取れている職場の人間関係が悪いなんてあまり想像できないじゃないですか。患者さんのためでもあり、医療従事者の働きやすさの面でもコーチングを学んだことがあるかどうかの違いは大きいかなと思います。
医療従事者自身がプロコーチのコーチングを受けることはとても役にたつと思います。他人を理解する根本には自分を理解できているか、が関係しているはずです。自分のことが何もわかっていなくて、相手のことがわかるわけがないですよね。だから、自分が今どんな状況なのか、どうありたいのか、というようなことが理解できていることは対人関係の中で大事なので、医療従事者自身がプロコーチのコーチングを受けることはとても役にたつと思います。一番はチームの中でお互いにコーチングできるのが理想ですよね。

 

スーペリアがつくる医療コーチング研修

今回、全四回の研修では

・コーチングの基礎とソーシャルスタイル理論

・「聞く」と「聴く」の違いから傾聴を考える

・承認とフィードバックの理解を深め1on1ミーティングを実践する

・アカウンタビリティとファシリテーション

をメインに実践的なエクササイズも行います。例えば「手術方法の選択に迷う患者さんへのコーチング」など。より日々の業務に直結した内容構成となっています。