2025年4月、東京海上日動システムズ株式会社で女性管理職として人事部のITマネージャーに昇進された木村様。
今回は、木村様の昇進までの経緯からその後の葛藤、管理職として大切にされていることを余すことなく伺いました。
―管理職になるまで様々なご経験があったと思いますが、それまでの葛藤や努力、支えとなった価値観はありますか?
正直なところ、子どもを産んでからは「意外と私って、専業主婦にも向いているんじゃないかな」なんて思い、「仕事を辞めてもいいかな」と考えていた時期もありました。
でも、家で子どもとだけ向き合っている環境だと「子ども」が主語の毎日で、「私」がなくなっていることに気づいたのです。その時に私には“キャリア”というものが必要なのだと思いました。
ただ、いわゆる“バリキャリ”を目指していたわけでもなくて、“ゆるキャリ”とも違う。仕事だけじゃなく家庭も両方やりたいし充実させたい、もちろんその中に自分の趣味や「自分らしくいる」ということも含めたい…そんな欲張りなキャリア観でした。
前回のインタビューでも「腐っていた時代もあった」と話しましたが、もともと管理職になりたいと思っていたわけではないのです。「管理職になろう!なるために努力しなきゃ!」といったキャリアパスではなくて、キャリアに向き合おうと思ったときから偶然起きる色々な出来事に対して、その偶然を良い偶然として引き寄せる心の持ち方を意識していました。
例えば「前向きでいる」ということ一つをとっても、「前向きに仕事をするってどういうことだろう?」、「この依頼に対して前向きに仕事をするということは、相手に何を提供することなのか」と考えていました。人から何か頼まれたときも、「断るのか、断らないのか」、「断るとしてもどういう風に相手に返してあげることが前向きなのか」ということをとても意識しています。その積み重ねが自分の人脈や信頼関係、色々なことに後から繋がっていきました。後から知ったことなのですが、キャリア理論で「計画性偶発的理論※」という考え方があると知り、私自身も色んな偶然を積み重ねた先に、管理職という選択肢にたどり着いたような感覚があります。
※1999年に心理学者のジョン・D・クランボルツ教授によって発表されたキャリア理論。キャリア形成において、偶然の出来事を積極的に活用し、自身のキャリアを築いていくという考え方。
―管理職に昇進された経緯を教えてください。
「なりたいです」と手を挙げました。自分のチームを変えたい、人事部やコーポレート全体、他部署の人たちの問題を解決したい…、この会社をもっといい会社にしたいという思いが強くなってきて、変えるためには手段として管理職というポジションにいる方が関われる範囲がひろがりそうだと思いました。
―昇進されてからどのような変化がありましたか?
課長代理の時が一番イキっていましたね(笑)。前回のインタビューでも「悪いところも私だし、いいところを伸ばせばいい」と話したのを覚えています。あの頃はとにかく壁に突進していくタイプで怖いこともなかったですし、「一旦ボコボコにされてきます!」という勢いがありました。倒れるとしても前のめりに倒れてやる、壁だって突進してみてとりあえずヒビが入ればいい、そんな気持ちで挑んでいました。
でも、管理職になった時、そんな猪突猛進な自分が弱まってしまったのです。無意識に怖いと思う自分がいたようで、それまでなら迷わず突っ込んでいったことも、管理職になってすぐの頃は「これで大丈夫でしょうか?」「どう思いますか?」と、上に確認をとるような自分がいて…自分でも「なんで
私、こんなこと言っているのだろう」と違和感がありました。
それまでは、突進して傷を負っても自分で治癒して立ち上がればいいと思っていたのです。でも、管理職になってからは「皆を引き連れてこのまま壁に突進できるのだろうか」といった怖さが生まれました。落ち込んだ時期もありましたが、内省する中でそういった自分がいることに気づいて、一旦落ち着いて立て直すことにしました。今年の4月に管理職になったばかりなので、今まさにその立て直しをしています。
無責任に皆に怪我をさせたくはないけど、自分がリーダーである以上「こうしたいよね」「こういう未来を描きたいよね」とありたい姿を共有して、その辿り方はメンバーに任せる。自分は皆が動きやすい環境づくりに責任を持てればいい、という考え方になりました。
あるとき上司に「どうすればいいですかね」と相談したら、「あなたはどうしたいのか」と聞かれてハッとしました。私がどうしようなんて言っていたらメンバーはもっと迷ってしまいます。もし判断を間違えて責任を取らないといけなくなっても「課長が取れる責任の範囲ってこれくらいしかないしな」と思い気持ちを持ち直しました。もし自分の判断に迷いがあるならその点を上司に共有すれば、上司が指摘してくれる。だからまずは「自分はこうしたい」と上に伝えることが大切だと気づいて、今はそうするようにしています。
―管理職として大切にされていることを教えてください。
メンバーが力を発揮し、やりたいことを実現できる環境をつくっていきたいです。
それって、リーダーにしかできないことだと思っています。たとえば、「チームとチームをつないで、うまくやれるように協力体制をつくる」ことは担当者ではなかなか難しい。リーダーとしてそういったつなぎ目の役割を担っていきたいと思っています。
ただ、会社として掲げている中期経営計画やビジョンなど“やるべきこと”もあります。会社として”やるべきこと”と、メンバーが自由に“やりたいこと”をしっかりと重ねたうえで仕事をお願いするリーダーでありたいです。
そのために、まずはメンバー一人ひとりにちゃんと興味を持って、何がやりたいのかを知ることが大切だと思っています。
―後進の育成で心掛けていらっしゃることはありますか?
魚を与えるのではなく釣り方を教えることを意識しています。メンバーがやりたいことをアサインするにしても、ただ単に「これをやってください」ではなくて、「将来やりたいことができるように」、「日々こんな行動を積み重ねればこんな未来につながるよ」ということを伝えていきたい。
「人脈形成力をつけたい」というメンバーに対して、人を紹介するだけだと成長できない。その時に私が伝えたのは「とにかくメールでも何でも、事務的に返さないように」ということでした。もちろん、事務的に返すのが悪いわけではないし、失礼でもない。でも、そこに一言でもいいから相手への気持ちや関心を添えるだけで印象に残ります。それがいずれ人脈につながっていくと思います。そういった小さな積み重ねが、やがて自分の仕事の付加価値にも繋がっていく。そんな風に日々の積み重ねをしていってほしいと伝えています。
―昇進されてから3カ月、大変だと感じることはありますか?
もちろんあります。皆言うことは違いますし、そもそも何が正解かもわからないですよね。Aさんから見た正解と、Bさんから見た正解が違うことは当たり前です。そんな中で、「どうすればチームとして叶えたいことに繋がっていくのだろう?」と、難しさを感じながら日々考え続けています。
管理職になってから1on1を始めて、皆を知れることは楽しいのですが、知りすぎてパンクしそうになる時もあります(笑)。今は「皆本当にいろんなことを思っているんだなぁ」と実感している段階です
ね。現場にいる人にしかわからない課題感がたくさんあって、私からは見えていなかったことも多くあったのだなと。「なんでここにモヤモヤを感じているのだろう?」と一緒に向き合っていくと、その人の価値観や大切にしていることが少しずつ見えてきます。そこからどう繋げていくか、どう引き出していくかがこれからの勝負どころだと思っています。
木村様の前回のインタビュー記事はコチラ




