コーチングとは?歴史や目的、活用事例を紹介

数年前に累計100万部を突破した「嫌われる勇気」をご存知でしょうか。同書では、「勇気づけの心理学」と言われるアドラー心理学がわかりやすく解説されています。現在、ビジネスの現場や医療機関、教育現場など、さまざまな場面で使われているコーチングは、このアドラー心理学の考え方もベースになっています。コーチングはどのようにして生まれ、どのような場面で活用できるのでしょうか。今回はコーチングの歴史や背景、海外や日本での活用事例を中心にご紹介します。

1.コーチングの語源と歴史

コーチの語源は「馬車」で、ハンガリーの“Kocs”(コチュ)という村名に由来します。コチュ村は初めて大型四輪馬車が製造された場所で、村名が大型四輪馬車の代名詞となりました。その後「コーチ」は「馬車」を意味する言葉として使われ始め、それが「大切な人を目的地まで送り届ける」という意味でも用いられるようになりました。1840年代には学生の受験指導をする個人教師のことをコーチと呼ぶようになり、1880年代、スポーツの分野の指導者に対してコーチという呼び名が使われるようになりました。スポーツ分野のコーチは技術指導をするだけでなく、選手のモチベーションを高めるなど精神面でのサポートも行っていました。
マネジメントの分野でコーチングを活用する動きが見られたのは米国です。1950 年代に当時ハーバード大学の助教授だったMyles Mace氏が著書“The Growth and Development of Executives”の中でマネジメントに必要なスキルとしてコーチングをあげたことに始まります。1962年にはカリフォルニア州に人間の総合的な成長を促進するための研究・トレーニング機関であるエサレン研究所が設立されました。1971年に開催された「気づき」のトレーニングプログラムは人気となり、100万人もの人が参加しました。
1980年代にはコーチング関連の本が多く出版されました。米国では、1991年にCoach Training Instituteが、1992年にはCoach Uが、それぞれコーチを育成する機関として誕生しました。また1995年には非営利団体 International Coach Federation(ICF:国際コーチ連盟)がコーチの質の維持を目的に設立されました。
1990年代中盤にIBMが大企業では初めてコーチングを利用したことから、欧米では企業がビジネスにおける人材開発の手段としてコーチングを活用するようになりました。1999年にはイギリスにCoaching Academyが、2000年にはEuropean Coaching Instituteが、2001年にはブラジルにInternational Coaching Institute(ICC)が設立されました。
日本では1997年にはじめてコーチングが紹介され、1999年には当時GE(ゼネラル・エレクトリック社)のCEOであり「伝説の経営者」と呼ばれていたジャック・ウェルチが「私は27歳の女性コーチと話をする中で意思決定をしている」と話したことが、コーチングが注目を集めるきっかけとなりました。その後、人材開発の手法としてコーチングスキルの研修を導入する企業が増え、スポーツや教育においてもコーチングが活用されるようになりました。2008年には国際コーチ連盟日本支部の前身となるICF東京チャプターが発足。2013年、TEDにおいてビル・ゲイツが「すべての人にコーチは必要」と語ったことから、コーチングは更に多くの人に知られることとなりました。現在世界各地には200を超えるコーチのトレーニング機関があり、約7万人がコーチとして活動しています。